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尾行

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「……」

「グレース」

「……」

「グレース」

「……」

「グレース! しっかりしてくれ」


 私はライナーに肩を揺さぶられ、我に返る。


 だが、視線はあの2人の姿をとらえたままだった。


「ねえ、見える?」

「……うん」

「あの2人、何してるかわかる?」

「……デートかな?」

 茶化すようにライナーは言う。


 はぐらかさずにちゃんと答えるこの男の好感度が少し上がった。


 幼馴染の2人――イヴァンとジェシーは、まるでカップルのようだった。


 手を繋いでいるわけではない。

 キスをしているわけではない。


 だが、明らかに男女間におけるその甘ったるい雰囲気を醸し出していた。


 私は怒りを通り越して、呆れかえっている。


 彼らが2人きりで遊びに行っているということには、薄々感づいていた。

 というのも、ジェシーが会うたびに、

「昨日のイヴァン、本当に面白かったんだから」

「この前遊びに行ったとき、イヴァンが――あ、ごめん。グレースはいなかったよね……」

 などというセリフを吐き続けていたから。


 だからといって、実際にその姿を認めてしまうと、私は驚いて声も出なかった。


「何やってんのよ、本当……」

 私は思わず呟いた。


 婚約者がいる男が、ほかの女と2人きりで遊びに行くですって?

 馬鹿なんじゃないの?


 ――いや、そうなると私も同罪か。

 ライナーと2人きりで会ってるし。


「君は彼らとは違うよ」


 私の心の声を汲んだのか、ライナーがフォローを入れる。


「君の場合は、僕を利用して新たな知見を広める意味合いも込められているからね」

「新たな知見……」


 なんか余計に、浮気を誤魔化すためのわけのわからない言い訳みたいに聞こえる。


「間違っちゃいないだろ?」


 ライナーは首をすくめる。

「少なくとも君は、イヴァン以外の男をちゃんと見るために、僕とデートしているはずだ」

「ええ、まあ」


 それはそうなんだけど。

 どう頑張っても、言い訳がましく聞こえるのはなぜだろうか。


「君はまじめだね、グレース」


 ライナーは微笑んだ。

「そんなところも素敵だよ」

「あ、ありがとう……」


 私はむず痒い気持ちになった。


 そうこうしてるうちに、イヴァンとジェシーは身を寄せ合いながら、映画館の隣にある路地裏に入っていく。


「あっ」

「追いかけよう」

「えっ」

「これが君の最後のチャンスかもしれないよ――あの2人から解放されるためのね」


 彼は私の手を取り、彼らが消えていった路地へ向かって行った。

 
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