巫女殺害未遂という言われなき罪で殺されそうになりましたが、私が実は本物の巫女なんですよね

契約

「契約……？」


　なんだか急に話が不穏に聞こえ始めてきたな。


「そう身構えるな、巫女」


　男は喉を鳴らして笑う。

「怯えるようなものではないぞ」


「……一体私にどうしろと？」

「簡単だ。お前が本来の仕事をすれば良い」

「本来の仕事？」

「お前は本物の巫女だろう？　ならば、その使命を全うせよ」


　つまり。

　神との「契約」が、巫女として生きる覚悟を決めることだと言いたいわけか。


「そうだ」

「具体的には？」

「偽の巫女が普段やっているようなことだ」


　あの人が普段やっていること？


　1日中神に祈りを捧げたり、様々な身分の男性を侍らせたりすることだろうか。


「そんなわけあるか」


　男はため息をつく。

「巫女の主な目的は、神からの言葉を授かること。神は、お前がその使命を投げ出したことを大層嘆いている。お前が申告しなかったことで偽の巫女が現れ、その者の間違った信託により世界の風紀が乱れつつあると」


　それはちょっと申し訳なく思う。


「じゃあ、それだけやれば良いってことなの？」

「ああ。お前が今まで見てきた巫女の一連の行動は、すべて人間どもが自身で作った無駄な行為。本来ならば、しなくても良いことだ」

「年がら年じゅう祈りを捧げることも、教会で慎ましく生きることも？」

「無意味でしかない。考えても見ろ。そんなことをしたって、一体なんになるんだ？」


　祈りを無意味だの無駄だの、神の使いにそう言われると、なんかこう複雑な気持ちになる。


「お前が神に身を捧げれば、神はお前に力を与えるだろう」

「……力ってどんな？」

「なんでも。困っていることを解決する力だ。神に仕える巫女であれば、神が直々に幸いを与えてくれるだろう」