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話③

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「再構築、ですか……?」


 弁護士がハワードに尋ねる。


 彼女の凛々しい表情が、少し揺れた。

 動揺しているのだ。


 私はほかの人たちの顔も伺うことにした。


 あり得ないというふうに首を横に振る父と母。

 ハワードの父親は、今にも殴りかかんばかりに拳を振り上げ、母親はそれを必死に止めている。


「お、お前っ……。お前という奴は!」


 ハワードの父親は、わなわなと唇を震わせた。


 馬鹿な息子を思い切り𠮟りつけたいらしいが、あまりの信じられない発言に、言葉が出てこないようだ。


「……あなた」

 彼の代わりに、お母様が言葉を発する。

「どういうつもりなんですか?」


 お母様は、冷静に努めようとしていた。

 だが、声の震えは隠せていなかった。


「娘ともう一度やり直したいですって?」

「はい」


 ハワードは、真っすぐにお母様の顔を見つめる。


 彼は真剣な表情だった。

 いや、純粋というべきか。


 自分のやったことの重大さに気づいていない。

 浮気は取り返しのつかないことではなく、許されることだ。

 だから、私たち夫婦は再構築出来る。


 子どもが間違ってティーカップを割ってしまったときのような。

 落ち込んではいるけれど、謝れば許してもらえるだろう。


 そんな魂胆が透けて見える顔だった。


「俺は、反省しています」

 ハワードははっきりとそう言った。

「俺のしたことで、彼女を、妻を傷つけてしまった。シャーリーを裏切ってしまった。だからこそ、今度こそ彼女を裏切らないように、彼女だけを想って生きていきたい。シャーリーだって、それを望んでいるはずだ」

「は?」

「君は俺に対して怒っているみたいだけれど。でも、そんなときこそお互いを許し合い、支え合う。それこそが夫婦だろう。だからシャーリー、俺を許してくれ」


 ハワードは、まるでポエマーのようだった。

 口から紡ぎ出すのは、彼にとって都合が良い言葉だけ。


 ゾッとした。


 彼と私は、そもそも住んでいる世界が違ったのかもしれない。

 話す言葉は同じでも、価値観がまるで違う。


 本当に、私はこの男と結婚していたのだろうか。

 夫婦生活を送っていたのだろうか。


 この得体のしれない存在を、私はまじまじと見つめた。

 
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