17 / 28
話③
しおりを挟む
「再構築、ですか……?」
弁護士がハワードに尋ねる。
彼女の凛々しい表情が、少し揺れた。
動揺しているのだ。
私はほかの人たちの顔も伺うことにした。
あり得ないというふうに首を横に振る父と母。
ハワードの父親は、今にも殴りかかんばかりに拳を振り上げ、母親はそれを必死に止めている。
「お、お前っ……。お前という奴は!」
ハワードの父親は、わなわなと唇を震わせた。
馬鹿な息子を思い切り𠮟りつけたいらしいが、あまりの信じられない発言に、言葉が出てこないようだ。
「……あなた」
彼の代わりに、お母様が言葉を発する。
「どういうつもりなんですか?」
お母様は、冷静に努めようとしていた。
だが、声の震えは隠せていなかった。
「娘ともう一度やり直したいですって?」
「はい」
ハワードは、真っすぐにお母様の顔を見つめる。
彼は真剣な表情だった。
いや、純粋というべきか。
自分のやったことの重大さに気づいていない。
浮気は取り返しのつかないことではなく、許されることだ。
だから、私たち夫婦は再構築出来る。
子どもが間違ってティーカップを割ってしまったときのような。
落ち込んではいるけれど、謝れば許してもらえるだろう。
そんな魂胆が透けて見える顔だった。
「俺は、反省しています」
ハワードははっきりとそう言った。
「俺のしたことで、彼女を、妻を傷つけてしまった。シャーリーを裏切ってしまった。だからこそ、今度こそ彼女を裏切らないように、彼女だけを想って生きていきたい。シャーリーだって、それを望んでいるはずだ」
「は?」
「君は俺に対して怒っているみたいだけれど。でも、そんなときこそお互いを許し合い、支え合う。それこそが夫婦だろう。だからシャーリー、俺を許してくれ」
ハワードは、まるでポエマーのようだった。
口から紡ぎ出すのは、彼にとって都合が良い言葉だけ。
ゾッとした。
彼と私は、そもそも住んでいる世界が違ったのかもしれない。
話す言葉は同じでも、価値観がまるで違う。
本当に、私はこの男と結婚していたのだろうか。
夫婦生活を送っていたのだろうか。
この得体のしれない存在を、私はまじまじと見つめた。
弁護士がハワードに尋ねる。
彼女の凛々しい表情が、少し揺れた。
動揺しているのだ。
私はほかの人たちの顔も伺うことにした。
あり得ないというふうに首を横に振る父と母。
ハワードの父親は、今にも殴りかかんばかりに拳を振り上げ、母親はそれを必死に止めている。
「お、お前っ……。お前という奴は!」
ハワードの父親は、わなわなと唇を震わせた。
馬鹿な息子を思い切り𠮟りつけたいらしいが、あまりの信じられない発言に、言葉が出てこないようだ。
「……あなた」
彼の代わりに、お母様が言葉を発する。
「どういうつもりなんですか?」
お母様は、冷静に努めようとしていた。
だが、声の震えは隠せていなかった。
「娘ともう一度やり直したいですって?」
「はい」
ハワードは、真っすぐにお母様の顔を見つめる。
彼は真剣な表情だった。
いや、純粋というべきか。
自分のやったことの重大さに気づいていない。
浮気は取り返しのつかないことではなく、許されることだ。
だから、私たち夫婦は再構築出来る。
子どもが間違ってティーカップを割ってしまったときのような。
落ち込んではいるけれど、謝れば許してもらえるだろう。
そんな魂胆が透けて見える顔だった。
「俺は、反省しています」
ハワードははっきりとそう言った。
「俺のしたことで、彼女を、妻を傷つけてしまった。シャーリーを裏切ってしまった。だからこそ、今度こそ彼女を裏切らないように、彼女だけを想って生きていきたい。シャーリーだって、それを望んでいるはずだ」
「は?」
「君は俺に対して怒っているみたいだけれど。でも、そんなときこそお互いを許し合い、支え合う。それこそが夫婦だろう。だからシャーリー、俺を許してくれ」
ハワードは、まるでポエマーのようだった。
口から紡ぎ出すのは、彼にとって都合が良い言葉だけ。
ゾッとした。
彼と私は、そもそも住んでいる世界が違ったのかもしれない。
話す言葉は同じでも、価値観がまるで違う。
本当に、私はこの男と結婚していたのだろうか。
夫婦生活を送っていたのだろうか。
この得体のしれない存在を、私はまじまじと見つめた。
6
お気に入りに追加
847
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
モラハラ王子の真実を知った時
こことっと
恋愛
私……レーネが事故で両親を亡くしたのは8歳の頃。
父母と仲良しだった国王夫婦は、私を娘として迎えると約束し、そして息子マルクル王太子殿下の妻としてくださいました。
王宮に出入りする多くの方々が愛情を与えて下さいます。
王宮に出入りする多くの幸せを与えて下さいます。
いえ……幸せでした。
王太子マルクル様はこうおっしゃったのです。
「実は、何時までも幼稚で愚かな子供のままの貴方は正室に相応しくないと、側室にするべきではないかと言う話があがっているのです。 理解……できますよね?」
もう一度だけ。
しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。
最期に、うまく笑えたかな。
**タグご注意下さい。
***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。
****ありきたりなお話です。
*****小説家になろう様にても掲載しています。
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
おかえりなさい。どうぞ、お幸せに。さようなら。
石河 翠
恋愛
主人公は神託により災厄と呼ばれ、蔑まれてきた。家族もなく、神殿で罪人のように暮らしている。
ある時彼女のもとに、見目麗しい騎士がやってくる。警戒する彼女だったが、彼は傷つき怯えた彼女に救いの手を差し伸べた。
騎士のもとで、子ども時代をやり直すように穏やかに過ごす彼女。やがて彼女は騎士に恋心を抱くようになる。騎士に想いが伝わらなくても、彼女はこの生活に満足していた。
ところが神殿から疎まれた騎士は、戦場の最前線に送られることになる。無事を祈る彼女だったが、騎士の訃報が届いたことにより彼女は絶望する。
力を手に入れた彼女は世界を滅ぼすことを望むが……。
騎士の幸せを願ったヒロインと、ヒロインを心から愛していたヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:25824590)をお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる