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揉め事 ~とある貴族視点~

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 聖女イルゼがとんでもないことをしでかしたという噂が、貴族の間で広がっていた。


 詳しい話はわからない。


 友人である公爵令嬢とその婚約者を仲違いさせたとも、それ以外でも毎日のように嫌がらせを繰り返していたとも、そのせいでフレイヤ嬢が家出をしてしまったとも。


 中には、

「聖女イルゼは、聖女としての力を失ってしまった」

 なんていう恐ろしい噂まであった。


 話は錯綜し、何が正しくて何が間違っているのか全くわからない。

 しかもその情報を、教会は我々に説明しようともしない。


 貴族たちは苛立っていた。


 今まで散々、

「寄付をしてくれ」

 だの、

「神への忠誠として、この札を買いなさい」


 などと、信仰にかこつけて何度も金をむしり取っていったくせに、こういう自分たちにとって都合の悪いときはだんまりを決め込むのか。


 いい加減腹が立ってくる。


 さらに、その中心にいるはずである、フレイヤの父親や彼女の婚約者であるカイルの父親も、何も言ってこない。

 説明すらしない。


 しびれを切らした何人かの貴族が2人のもとを訪れても、

「愚息が恥ずかしいことをして本当に申し訳ない。詳しい話は、教会から聞いてくれ」
 
 と、取りつく島もない。


 さらにフレイヤの父親である公爵に至っては、

「そんなことより、この事業の融資を――」


 などと、娘の安否など一切気にも留めていない様子。


 だからああして、娘に逃げられてしまったのだろうと思った。


 そうしているうちに、神官の筋で確かな情報が耳に入ってきた。


 聖女つきの神官が、聖女をナイフで刺したこと。

 命に別状はないものの、聖女は錯乱しているらしい。


 ――また。


「悪いことは言わない。すぐにこの国から脱出した方が良い」

 とも言っていた。


「この国は終わりだ。今すぐ他国へ亡命すべきだ。私も、もう既に隣国で仕事を見つけた」


 
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