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婚約者① ~カイル視点~
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僕には、婚約者がいる。
彼女の名前は、公爵令嬢フレイヤ。
婚約したのは、彼女が生まれて数週間経ったころ。
当時7歳だった僕の両親は、同じく公爵家であったフレイヤの両親と良い関係を築きたいと考えていた。
「まだ早いのではないか?」
そう渋る彼女の両親に向かい、父は言った。
「フレイヤ嬢を、必ず我が息子は幸せにしますから」
僕たちの関係は、そこからスタートした。
僕らは、むろん恋愛関係ではなかった。
僕は7歳から、彼女は生まれたときからずっと一緒にいた相手を、どうやってそう恋愛感情を抱き、想い合えるだろうか。
彼女は僕のことを兄のように思っていたし、僕は僕で彼女を妹のように思っていた。
ずっとそうだった。
ずっと。
それが普通のことだった。
しかし、僕に転機が訪れる。
彼女の友人、聖女イルゼが目の前に現れたことだ。
イルゼに関しては、その前からよくフレイヤに聞いていた。
フレイヤはよくイルゼのことを、
「可哀想な人」
だと評していた。
その疲れ切った顔から察するに、彼女はイルゼと共にいることに苦痛を感じているみたいだった。
だから僕は最初、イルゼに警戒心を抱いていたのだ。
自分が昔から可愛がっていた、妹のように想っていた婚約者に執着する存在。
ーーしかし。
彼女の言葉を聞いて、僕はだんだんと彼女の気持ちを理解出来るようになっていった。
イルゼは本当に「可哀想な人」だったのだ。
誰からも愛されることなく、ただ「聖女」として振る舞わなければならない日々。
彼女を見てくれる者はおらず、唯一の友人であるフレイヤでさえ、彼女を邪険にする。
僕はだんだん、イルゼのことを放っておけなくなっていった。
それと同時に、フレイヤに対して微かな怒りを感じる。
一体どうして、あの子は彼女を邪険にするのだろうか。
フレイヤはみんなから愛されて育ったはずなのに。
そうであるからこそ、この子の気持ちを理解出来ないのだろうか。
僕は最終的に、こう結論づけた。
フレイヤは薄情な人間だ。
そして、僕はあの可哀想なイルゼを放っておけないということ。
彼女の名前は、公爵令嬢フレイヤ。
婚約したのは、彼女が生まれて数週間経ったころ。
当時7歳だった僕の両親は、同じく公爵家であったフレイヤの両親と良い関係を築きたいと考えていた。
「まだ早いのではないか?」
そう渋る彼女の両親に向かい、父は言った。
「フレイヤ嬢を、必ず我が息子は幸せにしますから」
僕たちの関係は、そこからスタートした。
僕らは、むろん恋愛関係ではなかった。
僕は7歳から、彼女は生まれたときからずっと一緒にいた相手を、どうやってそう恋愛感情を抱き、想い合えるだろうか。
彼女は僕のことを兄のように思っていたし、僕は僕で彼女を妹のように思っていた。
ずっとそうだった。
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それが普通のことだった。
しかし、僕に転機が訪れる。
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フレイヤはよくイルゼのことを、
「可哀想な人」
だと評していた。
その疲れ切った顔から察するに、彼女はイルゼと共にいることに苦痛を感じているみたいだった。
だから僕は最初、イルゼに警戒心を抱いていたのだ。
自分が昔から可愛がっていた、妹のように想っていた婚約者に執着する存在。
ーーしかし。
彼女の言葉を聞いて、僕はだんだんと彼女の気持ちを理解出来るようになっていった。
イルゼは本当に「可哀想な人」だったのだ。
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彼女を見てくれる者はおらず、唯一の友人であるフレイヤでさえ、彼女を邪険にする。
僕はだんだん、イルゼのことを放っておけなくなっていった。
それと同時に、フレイヤに対して微かな怒りを感じる。
一体どうして、あの子は彼女を邪険にするのだろうか。
フレイヤはみんなから愛されて育ったはずなのに。
そうであるからこそ、この子の気持ちを理解出来ないのだろうか。
僕は最終的に、こう結論づけた。
フレイヤは薄情な人間だ。
そして、僕はあの可哀想なイルゼを放っておけないということ。
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