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仕事 ~執事視点~

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 俺は、

「世間体が悪い」

 と言い捨てた主人の後姿を、呆然と眺めた。


 何言ってんだ、この人。

 頭おかしいんじゃないのか?


 俺は信じられなかった。


 これが、娘を心配していると宣う父親の言葉なのだろうか。

 態度なのだろうか。


 正直、俺はあまりお嬢様のことを知らなかった。

 俺が雇われたのは、主にこの屋敷の主である公爵に仕えるため。


 任された仕事内容は、お嬢様には関係なく。


 俺の印象としては、フレイヤ様はただの大人しく家族に従順な方というだけだった。


 それが、家出。


 俺の中で激震が走ると同時に、妙に納得した。


 だろうな、という気持ち。


 フレイヤお嬢様に、家出をする気力があったというのは驚きだが。

 彼女がいずれ家を捨てるのは、なんとなく予想が出来ていた。


 だって、考えてみてほしい。

 あの親だぜ?


 自分の娘が行方不明だというのに、

「会合がある」

 と言って外へ出かけるような、そんな薄情な人間。


 自分の娘を、「聖女の友人」としか捉えていない。


 愛していると口では言うが、実際はそう思っていない。

 浅はかな心。


 貴族特有のものだと思っていたから特に文句は言わなかったが、

「あれは酷い」

「お嬢様が可哀想だ」

 と思っていた使用人たちは大勢いる。


「どうします?」


 俺に、メイドが話しかけてきた。

 主人が会合に出かけるという旨を教えてくれた子だ。

「そうだなあ……」


 鬼の居ぬ間に洗濯とばかりに、俺は砕けた言葉を使う。

「俺たちも、ここを出るか?」


 半分冗談で、半分本気だった。


 仕事がなくなるのは痛いが、お嬢様が家出したことで、その家の住人さえも逃げ出すほど、ここが劣悪な環境であることが否応なしに理解出来た。


 自分の娘に対してでさえ自身のエゴを押しつけるあの人たちが、赤の他人である俺たちに良くしてくれるわけがない。


 給料は低いし、暴言暴力は当たり前。

 使用人を物のように扱う主人に、そろそろ飽き飽きしていた頃合いだった。


「そう言えば」

 メイドが言った。

「私のところに、引き抜きが来たんです」

「引き抜きって?」

「伯爵家だから家の格は落ちるんですけど、給料はここの3倍だそうで」

「へえ。めちゃくちゃ良いじゃん」

「何人かなら一緒についていっても良いって言っていました」

「本当か? じゃあ、俺にもそこ、紹介してくれよ」

「ええ、もちろんですよ」
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