死にたいのなら、1人でどうぞ

憂鬱

　朝。


　私は寝不足の状態で学校に向かう。


　その理由は、昨日の夜から朝方にかけてずっとイルゼの話を聞いていたからだ。


　彼女の話は、大体1つだ。


「仕事が辛い」


　この1点のみ。


　私は馬車の中でうつらうつらと船を漕ぐ。


　昨日も散々だった。

　イルゼのすすり泣く声が、私の耳にこびりついている。

　一向ににそれが剥がれる兆しが見えない。


　彼女は大体週に2、3回くらい、深夜、私に電話をかけてくる。


「仕事が辛い」

「辞めたい」

「もう嫌だ」

「大人が嫌い」

「死にたい」


　私はずっと彼女を慰めていた。


「大丈夫」

「私がいるから」


　この繰り返しである。


　いい加減、疲れてきた。

　第一寝不足になるし、しかも今日は期末試験だ。


　それなのに、全然勉強もしていないし、寝てもいない。


　最悪のコンディション。


　いい加減こんなこと辞めたいけれど。


　周りの大人たちが許してくれない。


　特に家族は、

「せっかく聖女と仲良くなったんだから」

　とか、

「彼女がいなくなれば、この国は崩壊する。そしてそれがお前のせいになるんだぞ」

　とかなんとか言ってくる。


　そのくせ、私がイルゼのために夜遅くに長電話をしていると、


「一体何時だと思っているんだ！？」

　なんて怒鳴ってきたり、

「お前はいいご身分だなあ。夜遅くまで友達と電話なんかしたりして」

　なんて嫌味を言ってくるんだから、親なんて全然私のこと何も考えてくれてない。


　私は正直、ボロボロだった。


　言っちゃ悪いけど、イルゼのせいで私の人生めちゃくちゃだ。


　だけど、彼女にそんなことは大きな声で言えない。


　彼女は精神的に不安定だ。

　だからもし、彼女のほとんどを支配していると言っても過言ではない私がそんなことを言えば、彼女は一体どうなってしまうのだろうか。


　そんなこと思って、私は今日も彼女に自分の意見をはっきりと言えないでいる。