黒幕王女は忙しい

小倉みち

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第1章

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「……あっ」

「……様」

「……ああ、もう」

「王女様」

「本当、何してんのよ。お兄様。信じられないんだけど」

「王女様!」

「というか、なんであんな平民なんかと――」

「リリアンヌ王女様!」

「痛っ」


 突然、背中を思い切りどつかれた。


「ちょっと!」

 私は振り返って抗議する。

「何すんのよ。私は王女よ!」


「それじゃあ、王女らしくしてくださいよ!」

 私に暴力を振るった男――オリバーは言った。

「あんたが王女らしくしてくれたら、俺だってそういうふうに振舞います」

「王女らしく振舞ってるわよ、ほら」

 私はそう言って、くるりと一回転した。

「どう見ても王女でしょ?」

「あのねぇ」

 オリバーは思いっきりため息をついた。


「テラスから覗きをしている王女が一体どこにいますか!」




 あの平民の女――主人公がやってきてからというもの、私の兄は頭がおかしくなってしまった。


 いや、ストーリー的には間違っていないのだろう。

 第一王子ルートに入れば、問答無用で兄は彼女を好きになる。

 そういうシナリオではあった。


 だが。

 そうは言っても、あまりにもめちゃくちゃ過ぎる。


 あの女がいなかったころは、兄はとても優しかった。

 私に対してもそうだし、特に兄の婚約者である公爵令嬢に対して。


 この世界の未来を知っている私でさえも、

「あの2人があんな不幸な結末を迎えるはずがない」

 なんて思えるほど。


 しかし、主人公が現れてから、兄の行動は180度大きく変わった。


 兄は婚約者を放置し、ずっと主人公とイチャイチャイチャイチャ。

 まともに公務もこなさず、ずっとあの女と一緒にいる。


 今も、城の中庭で2人寄り添うようにしてベンチに座っていた。


「おかしいと思わない?」

 私はオリバーに言った。

「絶対にあの平民、何かしてるわよ。あのお兄様をあんなにアホにするなんて」

「言いたいことはわかりますが」

 と、オリバー。

「とりあえず、部屋に戻っていただけませんか? 今日は俺とあんたの貴重な逢瀬なんですから。ちゃんとしてくれないと、また国王陛下に叱られますよ」

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