23 / 67
第2章
畑
しおりを挟む
村に到着したのはお腹の機嫌が悪くなり始める午後帯であったが、早朝と同じく、村には人の気配がなかった。
出てこないのは、スライムのせいで仕事をすることが出来ないからだろう。
これは私たちにとって好都合なのか、それとも不都合なのか。
どちらにせよ、私たちが関与したことがバレたら(いや、結果を見れば一目瞭然だろうが)、私たちにとって不利になるのは確実だった。
私たちは畑へと向かい、布の中の暗闇を覗き込む。
太陽の光に照らされて、少し全貌が見えた。
だが、なんてことはない、ただの茶色い土だけがそこに広がっていた。
スライムのせいで全部の農作物を駄目にしてしまったのか、それとも奴らにめちゃくちゃにされるくらいなら、と綺麗にしてしまったのか、少なくともそこには土しかなく、戦いのフィールドには十分そうだ。
ーーそう言えば、まだ具体的な報酬内容聞いてなかったな。
どうしよう。
今聞くべきか?
パーシーの方をちらりと見やる。
彼は真剣な表情で、 畑を凝視していた。
「あの……」
「スライムは馬鹿なので、布を被せてしまえば村には近づきません。しかし、それを少しでもめくってしまえば最後ーー」
彼はぶつぶつと作戦の説明をしている。
私はもう一度尋ねた。
「あの、すみません」
パーシーはこちらを振り返る。
「なんですか?」
「今聞くのもあれなんですけど。報酬金って」
「あっ」
絶妙なタイミングで、パーシーは声を上げた。
「来ました。スライムです!」
ゼロと私は、パーシーが指さす方角を確認する。
だがーー。
「えっ、どこ?」
「そこです!」
「えっ」
私は瞬きしたり、目を凝らしてみたりするが、どこにもその影がない。
「どこ?」
「だから、そこだっつってんだろ!」
ゼロも、ほとんど怒鳴りつけるようにそう叫ぶ。
ヴァイオレットってこんなに目が悪かったの?
前世の私で唯一褒められるところと言えば、目だった。
長時間漫画を読んだりゲームをしたりなんかしていたのに、コンタクトはおろか眼鏡さえつけたことがない。
だから、なんかショック。
「ヴァイオレット! 馬鹿か! 早く剣を抜け!」
ゼロに急かされ、私は慌てて腰に差した剣を抜いた。
よくよく見ると、向こうの境界線から砂埃が立っているのを見つける。
なんだ。
あの程度か。
所詮はスライム。
そう油断した数秒前の私をしばき回したい。
砂埃の向こう側から確認出来る魔物の姿。
人間の子どもくらいの大きさの透明な何かが、全速力でこちらに近づいてくる。
その数、数百、いや数千……?
「いやいやいや!」
私は叫んだ。
「多すぎでしょ!」
まるで例の名作アニメーション映画のラストシーンのような、夥しい数の物体がこちらに迫ってきていた。
出てこないのは、スライムのせいで仕事をすることが出来ないからだろう。
これは私たちにとって好都合なのか、それとも不都合なのか。
どちらにせよ、私たちが関与したことがバレたら(いや、結果を見れば一目瞭然だろうが)、私たちにとって不利になるのは確実だった。
私たちは畑へと向かい、布の中の暗闇を覗き込む。
太陽の光に照らされて、少し全貌が見えた。
だが、なんてことはない、ただの茶色い土だけがそこに広がっていた。
スライムのせいで全部の農作物を駄目にしてしまったのか、それとも奴らにめちゃくちゃにされるくらいなら、と綺麗にしてしまったのか、少なくともそこには土しかなく、戦いのフィールドには十分そうだ。
ーーそう言えば、まだ具体的な報酬内容聞いてなかったな。
どうしよう。
今聞くべきか?
パーシーの方をちらりと見やる。
彼は真剣な表情で、 畑を凝視していた。
「あの……」
「スライムは馬鹿なので、布を被せてしまえば村には近づきません。しかし、それを少しでもめくってしまえば最後ーー」
彼はぶつぶつと作戦の説明をしている。
私はもう一度尋ねた。
「あの、すみません」
パーシーはこちらを振り返る。
「なんですか?」
「今聞くのもあれなんですけど。報酬金って」
「あっ」
絶妙なタイミングで、パーシーは声を上げた。
「来ました。スライムです!」
ゼロと私は、パーシーが指さす方角を確認する。
だがーー。
「えっ、どこ?」
「そこです!」
「えっ」
私は瞬きしたり、目を凝らしてみたりするが、どこにもその影がない。
「どこ?」
「だから、そこだっつってんだろ!」
ゼロも、ほとんど怒鳴りつけるようにそう叫ぶ。
ヴァイオレットってこんなに目が悪かったの?
前世の私で唯一褒められるところと言えば、目だった。
長時間漫画を読んだりゲームをしたりなんかしていたのに、コンタクトはおろか眼鏡さえつけたことがない。
だから、なんかショック。
「ヴァイオレット! 馬鹿か! 早く剣を抜け!」
ゼロに急かされ、私は慌てて腰に差した剣を抜いた。
よくよく見ると、向こうの境界線から砂埃が立っているのを見つける。
なんだ。
あの程度か。
所詮はスライム。
そう油断した数秒前の私をしばき回したい。
砂埃の向こう側から確認出来る魔物の姿。
人間の子どもくらいの大きさの透明な何かが、全速力でこちらに近づいてくる。
その数、数百、いや数千……?
「いやいやいや!」
私は叫んだ。
「多すぎでしょ!」
まるで例の名作アニメーション映画のラストシーンのような、夥しい数の物体がこちらに迫ってきていた。
10
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説
もう行き詰まったので、逃亡したい私〜異世界でこの中途半端な趣味を活かしてお金を稼ぎたいと思います〜
刹那玻璃
ファンタジー
行き当たりばったりです。
あらすじ変更あるかもです。
side変更ありです。
↓
自他共に認める病弱。偏頭痛持ち、慢性胃腸炎あり。
パニック障害と緊張すると引きこもりになります。
対人恐怖症のケもあり、全身から汗が噴き出ます。
自他共に認める多趣味。
一応裁縫はそこそこできます。刺繍もまぁできるし、見よう見まねで刺し子もいくつか完成させました。
編み物は凝りすぎない程度なら縄編みや模様編みはできます。セーターも編めます。
ぬいぐるみも作れますが自分で型紙は起こせません。
あとはレジンを使う小物も作れますし、天然石を使ったネックレスだのは楽しいです。
でも、そういったものはプロ並みに達する腕があるならいいのです。
私の腕はどうやってもアマチュア。その馬鹿加減にうんざりです。
情けないです腹立たしいです。
ネットフリマで販売していましたが、全く売れず、売れ残った在庫を抱え悶々とする私は、ひょんなことから人前に出なくていいというフリーマーケットに出品権をもらえることになる。
でも、代わりにこういう条件を突きつけられた。
◉フリマから提示した材料で作った商品を最低一つは並べること(初期は、今まで作っていたものも出品可能だが、量は減らすように努力する)
◉フリマから提示された材料で作った商品は他で販売したり、譲ったりしないこと
◉週一フリマはありますが、最低限、月に一度は出品すること
やった!
認められた!
その権利を使って在庫処分! ついでに収入獲得! 将来のために自分のスキルを磨いて月一の贅沢、某喫茶店で大好きなモンブランとコーヒーセットを食べるのだ!
※逝き遅れの魔術師の登場人物ちょっとだけ出てます。
あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話
此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。
電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。
信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。
そうだ。西へ行こう。
西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。
ここで、ぼくらは名をあげる!
ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。
と、思ってた時期がぼくにもありました…
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
【完結90万pt感謝】大募集! 王太子妃候補! 貴女が未来の国母かもしれないっ!
宇水涼麻
ファンタジー
ゼルアナート王国の王都にある貴族学園の玄関前には朝から人集りができていた。
女子生徒たちが色めき立って、男子生徒たちが興味津々に見ている掲示物は、求人広告だ。
なんと求人されているのは『王太子妃候補者』
見目麗しい王太子の婚約者になれるかもしれないというのだ。
だが、王太子には眉目秀麗才色兼備の婚約者がいることは誰もが知っている。
学園全体が浮足立った状態のまま昼休みになった。
王太子であるレンエールが婚約者に詰め寄った。
求人広告の真意は?広告主は?
中世ヨーロッパ風の婚約破棄ものです。
お陰様で完結いたしました。
外伝は書いていくつもりでおります。
これからもよろしくお願いします。
表紙を変えました。お友達に描いていただいたラビオナ嬢です。
彼女が涙したシーンを思い浮かべ萌えてますwww
【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!
隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。
※三章からバトル多めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる