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第2章

ちらし寿司

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 涙というものは永遠に感情と一緒に溢れ出てくるものだと思い込んでいたが、いくら偉丈夫であっても体力が無尽蔵でないのと同様で、私の身体は涙を出すことに疲れ果てた。
 

 泣き疲れたと同時にすっきりした私の心が次に着目したのは、号泣している姿を一部始終冬馬さんに見られ、あまつさえ彼の優しさに付け込んでしっかり慰めてもらったことだった。
 

 恥ずかしい。

 ものすごく恥ずかしい。


 大の大人が号泣だなんて。

 しかも、まだ知り合って日が浅い男の人の前で。


 顔を覆ったままいつまで経っても復活しようとしない私に痺れを切らしたのか、冬馬さんは尋ねる。

「もう良いか?」

「……まだです」

「泣き止んだろ」

「まだですってば」

 私は鼻水をすする。

「顔ぐしゃぐしゃなんで」

「いつまでもそのままでいるつもりか?」


 冬馬さんは私の腕をしっかり掴んで顔から引き剥がそうとするが、私は梃子でも動かない。


「嫌です! 嫌!」


 駄々っ子のように叫ぶ私に向かって、冬馬さんは最終手段を取った。


「じゃあこれ、いらないんだな」
 
「えっ」

「それなら残念だが、俺が食べるとしよう」

 ちらし寿司を自分の方に持っていき、店で使う割り箸をパキッと割った。


「いや、食べます! 食べますから!」


 それは嫌だ。

 食べたい。


 自分の顔とちらし寿司を天秤にかけた私は、迷うことなく後者を選んだ。


「なら、食べろ。今すぐに」

「はい! いただきます!」

 勢いよくそう言い、私は待望の一口を中に放り込んだ。
  

 その瞬間、口いっぱいに甘酸っぱさが広がる。


 声にならない悶えを発し、噛み締めるようにゆっくり歯を動かす。


 魚の脂、酢のさっぱりした味わい、プチプチと音を立てる食材、甘い錦糸卵、そしてシャキシャキのきゅうり。


 まさに極上。

 
 ブロック型に切られた彼らは、様々な食感を楽しませてくれる。

 文句なし。

 最高。


「どうだ? 店で出せるか?」
  

 冬馬さんの問いに、私は激しく頷いた。

「最高です! 私だったら毎日通います」

 私の反応が良かったのか、少し彼は嬉しそうだった。

「そうか、それは良かった。作った甲斐があった」

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