無理やり呪われた将軍の花嫁にされましたが、正直めちゃくちゃ好みのタイプでした

第3章

ベアトリーチェ

　悲報。


　ベアトリーチェ先生は、ものすごく厳しかった。


　絵に描いたような鬼教師である。


　例えば、彼女は私を部屋の端から端まで歩かせた。


「歩いてちょうだい」


　私は指示通り、おもむろに足を1歩踏みだす。


　すると。


「違う！」

　と言って、彼女の扇子が私の手の甲にペチンッと当たった。


「そうじゃないの！」


　そうじゃないのとは、じゃあどうなんだと思う。


　それにしても、手の甲をしばかれるのは絶妙に痛くない。


「まず、ゆっくりと爪先から1歩出すの！」

「えっ。……こ、こう？」

「違う！」


　ペシッ。

　また叩かれる。


　これの繰り返し。


　先生の授業は、彼女の都合もあるので週2日、朝食を食べてから夕食が出るまでの時間に行う。


　昼休みを除くと、合計8時間強私はベアトリーチェ先生と一緒にいる計算になる。


　その間、私はずっと歩く練習をしていた。

　少しでも失敗すると、


「違う！　やり直し！」


　という先生の厳しい声が飛ぶ。


　最初は、敬語を使うべきかどうかという点ばかりで悩んでいた私も、最初の授業終了間際には、

「はい！」
　
「わかりました！」

　という言葉しか吐けない、完全なる体育系へと成長してしまっていた。


　先生のおかげで、足が異常に痛い。

　もうパンパンである。


　ヒールを履くせいで足が浮腫み、それがぎゅうぎゅうと靴の中に無理やり詰め込まれた、あの破裂せんばかりの激痛がずっと続く。

　ふくらはぎも浮腫む。


　ここに来る前はずっとデスクワークだった一般人にとって、1日の3分の1歩き続けるのは、本当にキツい。


　だけど、良い先生だとは思う。


　私の見知った人たちなんかは、教える立場のくせにわけわかんない説明したり、さっきと言ってること全然違うじゃんとか、よくわからないタイミングでブチ切れたりなんてことはしょっちゅうだったが。


　彼女は全体的にイライラしているものの、説明も上手く的確だった。


　恐らく、ある程度の能力を持つ人であれば、彼女の教え方でぐんぐん成長出来るだろう。


　……まあ、それについていけるほど私、優秀な人間じゃないんだけどね。