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第1章

部屋②

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 ロレンツさんがいなくなり、私は1人部屋に取り残される。


 湧き上がった疑問はひとまず横に置いておく。


「はあ」

 私は誰にも聞かれないのを良いことにため息をつき、ソファに腰掛けた。


「これからどうしよう」


 私は天井にぶら下がるシャンデリアを見つめる。

 その精巧なガラスの作品は、向こうの世界でよく見かけるちゃちな代物よりも、よっぽどシャンデリアしていた。


 私の住んでいた世界とは全く違う。


 ここは異世界だ。


 知らない人間に向かって急に剣を振りかざす国王がいたり、こっちの人権を全く考慮せずに勝手に異世界の人間を召喚するような国のトップがいたり、巻き込んだ挙句謝罪もしないで誰だお前と言う中年のおじさんがいたり、はたまた顔で自分たちの目的だった聖女様を選ぶようなセクハラジジイがいたりする場所なのだ。


 後半はまあ現代でも割とある話ではあるけど、巷で害悪と言われるような究極の形態の人間が目の前に突然現れ、私をボロクソに罵った挙句、

「もうお前は元の世界に戻れませーん。この世界で一生過ごすんだな」

 と言われた私の気持ちを誰か代弁してほしい。


 大好きだったあの漫画やアニメやゲームや何やらすべてがこの世界にない。


 当時めちゃくちゃテンションの上がった某錬金術師や某バスケ漫画や某テニス漫画の原作を、もう二度と楽しむことが出来ないのだ。


 特別展示場や2.5次元舞台にもう行くことが出来ない。

 2次創作だって読めない。


 それに、私は誰にももう会えないのだ。

 家族にも友人にも同僚にも上司にも――いや、上司とは別に二度と会わなくても良いんだけど。


 とりあえず、私は向こうの世界の住人達には二度と会えない。


 私は、目の前の輝くシャンデリアがだんだん滲んでいっていることに気づく。


 もう少しちゃんと親孝行すれば良かったな。

 ありがとうとか、ごめんなさいとか、普段からしっかり言っておけば良かった。


 ボロボロと流れる涙を、自分の袖で押さえる。


 ふと気づいた。


 そうだ。

 化粧してたんだった。


 私は目を拭いた方の袖を見つめる。


 まつ毛に塗っていた真っ黒なマスカラが、オフホワイトのブラウスにがっつりついてしまっていた。








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