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第2章
村
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空はもうすっかり日が昇っていた。
日の光は、空の1番高いところにいる。
もう昼か。
総じて1日中働いていることになっていたが、あの龍との戦いのせいで完全に神経が興奮しており、身体の疲れは感じているものの、俺の目はギラギラしていた。
それは師匠も同じなようで、エスタを抱えながら充血した目をじっと、目の前の道に据え置いていた。
「師匠」
「なんだ?」
「交代しましょうか?」
「あ?」
「エスタさんをです」
エスタの身体は平均よりも小さく、軽いとは思うが、意識のない人間を背負って運ぶのは何かと苦労するのは俺もよく知っている。
「馬鹿にすんなよ」
師匠は、ニヤッと笑って答えた。
「ピークは過ぎたが、俺だって冒険者の端くれだ。この程度、なんてことねぇよ」
だが、俺が龍に飲み込まれている間に、師匠もエスタと一緒になって戦ってくれていたのだろう、ポーションでも消せない傷やら打撲が見て痛々しかった。
俺たちは、あの無人の村に戻った。
宿を取る予定だった川のほとりに向かう。
幸運なことに、この夜中でキャンプセットやその他の私物が野盗に取られたりすることはなかったようだ。
昨日と同じ状態のままでその場に放置されていた。
師匠は敷いていた寝袋の上に、エスタをゆっくりと降ろした。
彼女はまだ、龍の身体から取り出したらしい人間の骨を力強く持っている。
「……なんなんだ、これは」
「さあ……?」
俺は首を傾げた。
「骨、ですかね?」
「それくらいはわかる。だが、なんでこの骨を? なんで自分の弟を殺してまで」
「それは本人に聞くしかないでしょうね」
「……」
師匠は、その骨を回収しようと手を伸ばす。
それに触った瞬間――。
エスタはビクッと身体を痙攣させ、師匠の手を思い切り払いのけた。
「うぉっ」
師匠の叫び声を聞いて、ぱちくりとエスタは数回瞬きした。
「……」
そのまま無言で起き上がり、自分の手に持った人骨を見て安堵のため息をつく。
「お、おはようございます……」
俺は、エスタの表情を伺う。
「体調の方は?」
彼女はしばらく無言で虚空を見つめていたが、やがてゆっくりと首を縦に振った。
「大丈夫です。ありがとうございます」
「火傷、結構酷いんですけど。痛んでませんか?」
そこで彼女は初めて自分が火傷していることに気づいたのか、目を丸くして自分の両腕を見つめる。
「それで」
師匠はどっかりと寝袋の横に座る。
「当然、説明してくれるんだろうな」
師匠は彼女を睨んでいる。
「師匠」
俺は窘めた。
「彼女は怪我をしているんですよ」
「だからと言って、それで言い逃れはさせねぇよ――なんでこんなことしたんだ?」
エスタはゆっくりと師匠の方に視線を向けた。
「殺されたんです」
彼女は口を開いた。
「大事な人が、私の義弟に」
日の光は、空の1番高いところにいる。
もう昼か。
総じて1日中働いていることになっていたが、あの龍との戦いのせいで完全に神経が興奮しており、身体の疲れは感じているものの、俺の目はギラギラしていた。
それは師匠も同じなようで、エスタを抱えながら充血した目をじっと、目の前の道に据え置いていた。
「師匠」
「なんだ?」
「交代しましょうか?」
「あ?」
「エスタさんをです」
エスタの身体は平均よりも小さく、軽いとは思うが、意識のない人間を背負って運ぶのは何かと苦労するのは俺もよく知っている。
「馬鹿にすんなよ」
師匠は、ニヤッと笑って答えた。
「ピークは過ぎたが、俺だって冒険者の端くれだ。この程度、なんてことねぇよ」
だが、俺が龍に飲み込まれている間に、師匠もエスタと一緒になって戦ってくれていたのだろう、ポーションでも消せない傷やら打撲が見て痛々しかった。
俺たちは、あの無人の村に戻った。
宿を取る予定だった川のほとりに向かう。
幸運なことに、この夜中でキャンプセットやその他の私物が野盗に取られたりすることはなかったようだ。
昨日と同じ状態のままでその場に放置されていた。
師匠は敷いていた寝袋の上に、エスタをゆっくりと降ろした。
彼女はまだ、龍の身体から取り出したらしい人間の骨を力強く持っている。
「……なんなんだ、これは」
「さあ……?」
俺は首を傾げた。
「骨、ですかね?」
「それくらいはわかる。だが、なんでこの骨を? なんで自分の弟を殺してまで」
「それは本人に聞くしかないでしょうね」
「……」
師匠は、その骨を回収しようと手を伸ばす。
それに触った瞬間――。
エスタはビクッと身体を痙攣させ、師匠の手を思い切り払いのけた。
「うぉっ」
師匠の叫び声を聞いて、ぱちくりとエスタは数回瞬きした。
「……」
そのまま無言で起き上がり、自分の手に持った人骨を見て安堵のため息をつく。
「お、おはようございます……」
俺は、エスタの表情を伺う。
「体調の方は?」
彼女はしばらく無言で虚空を見つめていたが、やがてゆっくりと首を縦に振った。
「大丈夫です。ありがとうございます」
「火傷、結構酷いんですけど。痛んでませんか?」
そこで彼女は初めて自分が火傷していることに気づいたのか、目を丸くして自分の両腕を見つめる。
「それで」
師匠はどっかりと寝袋の横に座る。
「当然、説明してくれるんだろうな」
師匠は彼女を睨んでいる。
「師匠」
俺は窘めた。
「彼女は怪我をしているんですよ」
「だからと言って、それで言い逃れはさせねぇよ――なんでこんなことしたんだ?」
エスタはゆっくりと師匠の方に視線を向けた。
「殺されたんです」
彼女は口を開いた。
「大事な人が、私の義弟に」
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