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第2章

東の村

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 俺と師匠は、件の村に向かうことになった。

 さっそく装備を買い求める。

 元々持っていた装備は貸し出しだからと勇者にぶんどられたので、町の装備屋で一番安いものを買った。


「本気で、それで戦おうとしているのか?」

「ええ、まあ」


 安物の鎖かたびらや剣を見せると、本気で心配したらしい、師匠が、

「俺がおごってやるよ。さすがにその格好じゃお前死ぬぞ」

 と言って、一番高いものを買ってくれた。

「ありがとうございます」

「気にすんな。あとで返してもらうからな。出世払いだ」


 くれるのはありがたかったが、その前に買った安物の装備品が無駄になってしまったのは残念だった。

 安いから屑鉄として売っても二束三文にしかならない。

 かといって持っていくのも邪魔なので、とりあえず自室に放っておくことにした。


 東の村が自分の故郷だと言っていた受付嬢は、ギルドマスターである師匠に、


「私も故郷に戻ってお手伝いをします」

 と言っていたが、

「お前はギルドの仕事があるだろ。社会人なんだ。責任を持ってちゃんと仕事しろ」

 と諭され、落ち込んでいた。


 まあ気持ちはわからんでもないが、非戦闘員を連れていくのは何かと危険だからな。

 それが良策だと俺も思う。


 そして出発の日。

「お兄ちゃん、頑張ってね!」

 朝一で病院に赴き、弟のレイに会った。


「ああ。しばらく帰ってこないだろうが、かならず戻ってくるから」

「うん。勇者様にもよろしくね!」

「あ、ああ……」


 俺は未だ、レイに勇者パーティを追放になったことを伝えていない。

 タイミングを見計らっているうちに、時だけが過ぎていって収集がつかなくなったのだ。


「レイ、この仕事が終わったら、言いたいことがあるんだ」

 俺は意を決してそう伝える。

「わかった」

 レイはにこにこして言った。

「なんだろう、お兄ちゃん、彼女出来たとか?」

「なわけねぇだろ」

「だよねぇ。お兄ちゃんモテなさそうだし」

「くっそ。お前なあ」


 キャッキャとレイは楽しそうに笑っていた。


 病院を出ると、俺を待っていた師匠が軽く手を振ってきた。


「すみません、お待たせしました」

「ああ、気にすんな。それより、レイは元気なのか?」

「……そう振舞っているようですが」

「そうか」


 師匠は目を伏せた。


「まあなんだ、ともかく天使草を取れば話が早いってことだな」

「ええ……。すみません、師匠。レイに会わせることが出来なくて」

「まあ、親族以外立ち入り禁止ならしゃあねぇわな」


 俺と師匠が知り合いであるのと同じように、小さい頃はレイも師匠と良く遊んでいた。

 その頃から身体の調子は悪かったが、今ほどではなかったのだ。


「あ、あの……っ!」


 聞き覚えのある声が、後ろ側から聞こえる。


「カイさん、マスター! 少し待ってください!」

「んあ?」


 俺と師匠は振り返る。

 受付嬢がゼーゼーと肩で息をしながらこちらに向かって走ってきていた。


「大丈夫ですか?」

「え、ええ……。すみません、お願いしたいことが」

 受付嬢はそう言って、懐から手紙を取り出す。


「すみません、これを村の誰かに渡してほしいのです。ドラゴンが現れてから飛脚も止まってしまっていて、手紙なんて全然渡せなくて」

「ええ、わかりました。仕事のついでですし」

「ありがとうございます……!」


 受付嬢はへらっと微笑んだ。


「そういえば、」

 俺はふと思った。


「お名前聞いてませんでしたよね?」

「えっ」


 受付嬢は目を丸くし、しばらくして顔を赤らめた。


「おいおいおい、俺の前で部下を口説くんじゃねぇよ、カイ」

 師匠はニヤニヤと揶揄う。

「いや、違いますよ。礼儀としてですね」

「大丈夫だ、俺あわかってるぜ」

 師匠はそう言って、俺の肩をバシバシ叩く。


 なんでだよ。


 俺は痛む肩をさすった。


 名前聞いただけじゃねえか。


「あ、えっと。エスタと言います」

 受付嬢、もといエスタは顔を下に向けたまま言った。

「良い名前ですね」

「あ、ありがとうございます」


 なんだか雲行きが怪しくなってきたので、俺は早々にこの話を切り上げることにする。

「それじゃ、行きましょうか」

「ああ、そうだな」


 師匠は頷いた。


「じゃあな、ギルドの留守をよろしく頼むぞ」

「かしこまりました! マスター、カイさん、ご武運を。行ってらっしゃい!」


 エスタは大きく手を振る。


「行ってきます!」


 俺も負けじと両手を大きく振った。
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