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第2章
最初の依頼
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師匠が俺と組んでくれることとなり、受付嬢は俺に最初の依頼を提示してくれた。
「これはいかがでしょうか?」
彼女がそう言って渡してきた羊皮紙には、以下のようなことが書かれている。
【急募!】東龍退治
「東の龍……?」
「ああ、これはだな」
と、師匠。
「ここから東にある小さな村で、近頃龍が出没するらしい」
「龍って言えば」
小さいころ、両親が俺とレイに語ってくれた物語を思い出す。
「伝説の生き物ですよね? そんな奴が、本当にいるんですか?」
「わかんねぇ」
師匠は首を横に振った。
「だが、1つ言えることは、この依頼を受けて帰って来た者はほとんどいない。奇跡的に命からがら帰って来た奴らは口をそろえて、
『龍が俺たちを食おうとしていた!』
と言っているらしい。まあ、風の噂だがな」
さっそく変なものを出すなよとばかりに、師匠は避難の目を受付嬢に向ける。
「ランクはB……。まあまあですね」
「ああ、だがこのランク表示は当てにせん方がいいぞ。そのドラゴンの強さはそこまでではないらしいが、実際のところ、Aクラスの人間が何人も連なってでさえ、なぜか勝てないと聞いている」
「へぇ」
「で、なんでお前はこれを俺たちに持って来たんだ?」
師匠は、受付嬢に尋ねる。
「俺はブランクがあるんだ。それに、そんな面倒な依頼をこなせるほど元気でもないぜ」
俺はそう言う師匠の身体を見つめた。
その辺にいる冒険者たちよりも、明らかに屈強な体つきをしている。
全盛期よりも能力が落ちているとはいえ、そこまで卑下するほどのものでもないような気がするが。
「でも、報酬はめちゃくちゃ良いですね」
俺は言う。
依頼文に書かれた報酬額は、レイの1年分の入院費くらいはあった。
「そりゃ、なんたって急募だからな」
「あの、」
受付嬢が申し訳なさそうな顔で言う。
「すぐ取り換えてきます」
「ああ、頼む」
師匠はそう言ったが、俺は少し不思議に思って彼女の動きを止めた。
「あの、なんでそれを選んで来たんですか?」
「え?」
「いや、ちょっと気になって」
俺はさっき彼女と会ったばかりだ。
しかし、先ほどの俺に対して危ないことはするなという態度と、今の危険な依頼を持って来た彼女の行動には、明らかに矛盾しているような気がした。
「ああ、えっとですね」
受付嬢はしばらく目を泳がせていたが、ややあって口を開いた。
「その東の国、私の故郷でして……。せっかくマスターとカイさんみたいにランクの高い人がいるから、ちょっとお願いしてみようかなっと――ああ、いえ。もちろん、軽い気持ちですので。受けていただかなくて構いません。失礼しました。それでは違うものを持ってきます!」
「ちょっと!」
俺は受付嬢の腕を掴んだ。
「ふぇぇっ!」
彼女は奇声を上げた。
「その話、受けます」
「おいおいおいおい」
師匠が呆れたような顔で言う。
「何言ってんだ、カイ。お節介で自分の命を散らしちゃ、世話ねぇぜ」
「お節介じゃないですよ、師匠。報酬金のためです」
「は、はあ……」
受付嬢は赤くなったり青くなったりしていたが、とりあえずというふうにその場に立ち止まった。
「俺には金が必要なので」
「だが、その依頼はイレギュラーなことばかりだ。俺でさえ、どうなるかわからんぞ」
「大丈夫ですよ、だって師匠ですから。師匠はお強いですし」
「あ、ああ……」
師匠は照れたように、自分の頭をガシガシと掻いた。
「そ、そうか?」
「そうです。だから、俺たちで頑張りましょう」
乗りかかった舟だ。
報酬金も高いし。
ここまでちゃんと親身になってくれた受付嬢に、少しくらいお礼をしても良いだろう。
「じゃ」
俺は師匠の気が変わらぬうちに、受付嬢に向かって言った。
「それ、受けます」
「これはいかがでしょうか?」
彼女がそう言って渡してきた羊皮紙には、以下のようなことが書かれている。
【急募!】東龍退治
「東の龍……?」
「ああ、これはだな」
と、師匠。
「ここから東にある小さな村で、近頃龍が出没するらしい」
「龍って言えば」
小さいころ、両親が俺とレイに語ってくれた物語を思い出す。
「伝説の生き物ですよね? そんな奴が、本当にいるんですか?」
「わかんねぇ」
師匠は首を横に振った。
「だが、1つ言えることは、この依頼を受けて帰って来た者はほとんどいない。奇跡的に命からがら帰って来た奴らは口をそろえて、
『龍が俺たちを食おうとしていた!』
と言っているらしい。まあ、風の噂だがな」
さっそく変なものを出すなよとばかりに、師匠は避難の目を受付嬢に向ける。
「ランクはB……。まあまあですね」
「ああ、だがこのランク表示は当てにせん方がいいぞ。そのドラゴンの強さはそこまでではないらしいが、実際のところ、Aクラスの人間が何人も連なってでさえ、なぜか勝てないと聞いている」
「へぇ」
「で、なんでお前はこれを俺たちに持って来たんだ?」
師匠は、受付嬢に尋ねる。
「俺はブランクがあるんだ。それに、そんな面倒な依頼をこなせるほど元気でもないぜ」
俺はそう言う師匠の身体を見つめた。
その辺にいる冒険者たちよりも、明らかに屈強な体つきをしている。
全盛期よりも能力が落ちているとはいえ、そこまで卑下するほどのものでもないような気がするが。
「でも、報酬はめちゃくちゃ良いですね」
俺は言う。
依頼文に書かれた報酬額は、レイの1年分の入院費くらいはあった。
「そりゃ、なんたって急募だからな」
「あの、」
受付嬢が申し訳なさそうな顔で言う。
「すぐ取り換えてきます」
「ああ、頼む」
師匠はそう言ったが、俺は少し不思議に思って彼女の動きを止めた。
「あの、なんでそれを選んで来たんですか?」
「え?」
「いや、ちょっと気になって」
俺はさっき彼女と会ったばかりだ。
しかし、先ほどの俺に対して危ないことはするなという態度と、今の危険な依頼を持って来た彼女の行動には、明らかに矛盾しているような気がした。
「ああ、えっとですね」
受付嬢はしばらく目を泳がせていたが、ややあって口を開いた。
「その東の国、私の故郷でして……。せっかくマスターとカイさんみたいにランクの高い人がいるから、ちょっとお願いしてみようかなっと――ああ、いえ。もちろん、軽い気持ちですので。受けていただかなくて構いません。失礼しました。それでは違うものを持ってきます!」
「ちょっと!」
俺は受付嬢の腕を掴んだ。
「ふぇぇっ!」
彼女は奇声を上げた。
「その話、受けます」
「おいおいおいおい」
師匠が呆れたような顔で言う。
「何言ってんだ、カイ。お節介で自分の命を散らしちゃ、世話ねぇぜ」
「お節介じゃないですよ、師匠。報酬金のためです」
「は、はあ……」
受付嬢は赤くなったり青くなったりしていたが、とりあえずというふうにその場に立ち止まった。
「俺には金が必要なので」
「だが、その依頼はイレギュラーなことばかりだ。俺でさえ、どうなるかわからんぞ」
「大丈夫ですよ、だって師匠ですから。師匠はお強いですし」
「あ、ああ……」
師匠は照れたように、自分の頭をガシガシと掻いた。
「そ、そうか?」
「そうです。だから、俺たちで頑張りましょう」
乗りかかった舟だ。
報酬金も高いし。
ここまでちゃんと親身になってくれた受付嬢に、少しくらいお礼をしても良いだろう。
「じゃ」
俺は師匠の気が変わらぬうちに、受付嬢に向かって言った。
「それ、受けます」
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