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第1章

薬草

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  レイの体調は明らかに悪化している。


  もちろんあの名医でなければ、レイはとっくの昔に死んでいただろう。今日まで生きてこられたのは、あの病院のおかげだった。

  しかし、現に俺の弟は今ヤバい状況にある。この病院でも、完治は難しいのだ。


  やはり、あれを探しに行くしかないか。


  俺は考えた。


  レイの心臓を良くするための方法が、まだひとつ残っていた。


  それは、「天使草」という珍しい薬草を手にいれ、煎じて飲ますことだった。


  それは万病に効くとされているが、そのせいで昔めちゃくちゃな栽培・採取がなされ、人間が住める場所ではほとんど全滅していた。

  唯一取れるところと言えば、安易に人間が入り込めない魔王城の周辺である。

  俺が勇者パーティに参加しようと決意したのも、彼らが魔王を倒すという目的で活動しているからだ。

  その最中に少し抜けて天使草を取りに行き、生きて帰ることが出来れば、俺の弟の心臓は良くなる。


  ずっとそう思っていた。


  しかし世の中はそう簡単に上手くいかないもので、俺の入ったパーティは魔王を倒す気配など微塵も感じ取れなかった。いつもその辺でうろうろして雑魚を倒し、適度に成果を上げているのみ。しかもそれさえ、最近は全部俺がしていたのだ。


  さて、行くか。


  俺は決意する。

  チートも何も持っていない、ただの一剣士である俺が一人で魔王城に乗り込めるのか正直不安だが、天使草のためだ。

  レイのためだ。


  薬草を煎じて飲ませ、レイが回復すれば、すぐにでもこの病院から退院することが出来る。

  正直、入院費用が馬鹿にならないのだ。

  これ以上働いても、俺とレイのどちらが先に潰れるかという耐久勝負になって来ていた。


  俺は病室の扉に向かって、誰にも聞こえないように小さく呟いた。

「待ってろよ。すぐに天使草を持ってきてやるからな、レイ。お前の身体が良くなったら、二人でどこかで静かに暮らそうぜ」
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