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婚約者 ~ユーリ視点~

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 俺には、婚約者がいる。


 彼女の名前は、ウェンディ。


 俺と同じ、公爵家に属する人間。

 そして、幼馴染でもある。


 俺たちの関係性を、一言で表すのはとても難しい。


 彼女とは許嫁でありながらも、腐れ縁のような間柄だ。


 家族同士の仲が良い。

 今後とも、仲良くしていきたい。

 ただ、それだけで。

 俺とウェンディは、生まれる前から未来が決まっていたのだ。


 しかし今まで、俺の中でそれが問題視されることはなかった。

 ウェンディはそこそこ可愛いし、聡明だ。

 俺とも話が合うし、何より長年一緒に過ごしてきた時間が、俺たちの仲を良好なものとさせていた。


 それで十分だった。

 十分だと思っていた。


 俺たちは卒業後結婚し、家庭を築く。

 子どもを産み育て、また未来へと自分たちの血筋を紡いでいく。


 そういうものだと、思っていた。


 だが、違うと彼女――ヒメナは言ったんだ。


「本当に、ウェンディのことが好きなの?」


 彼女は、同じクラスの女子生徒だった。

 男爵令嬢という、俺よりも低い身分ではあるものの。

 その物怖じしない、明るい性格のせいか、男子生徒たちによくモテていた。


「ああ、まあ」

 俺は曖昧に微笑んで、彼女の言葉に返事をする。

「そりゃ、許嫁だしね」

「それで、良いの?」


 ヒメナは、じっと俺の目を見つめた。

「良いって? 何が?」

「ずっと、それで良いの? 何ごともなく、ウェンディと結婚して。『普通』の人生を送って、死ぬ。それで良いの?」

「……」

「私、実は……」


 答えられない俺に向かって、頬を染めるヒメナ。

「ユーリのこと、気になってるの」

「えっ」


 目を丸くする。

「……試しで良いから、付き合ってみない?」

「えっ、でも」

「もしも良いなら、ウェンディにこう提案してみるのはどう? 

『恋がしたい』

 って。恋がしたいって提案したうえで私と付き合えば、別に浮気でもなんでもないわ。それなら、問題ないでしょう?」


 ブチッと、頭の中で何かが切れる音が聞こえる。


 ヒメナは可愛かった。

 客観的に見て、ウェンディよりも。


 そして彼女は、俺のことが気になっているという。


 何事もなく、普通の人生を送って生きていくのか?

 ウェンディに言えば、浮気でもなんでもない。

 ただの、「試し」だ。


 

 
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