【完結】恋がしたい？ どうぞご勝手に

行動

「ちょっと、ヤバいんじゃない？」


　パトリックの所属する教室から出た瞬間、マーサは私に向かって言った。

「ヤバいって？」

「わかってるでしょ。パトリックとユーリが学校を休んでいるということなのよ」

「つまり？」

「こうなってる可能性もあるわね」


　マーサは私の肩を軽く小突く真似をする。


「ちょっともう」


　私は笑いながら、彼女の拳を片手で避けた。

「笑い事じゃないかもしれないわよ」


　私はマーサの言葉を聞いて、肩をすくめる。

「考えすぎじゃない？」

「そうかしら」

「さすがのユーリも、まさか元親友に危害を加えようとは思わないでしょ」


　マーサは首を振る。

「あなたは、まだユーリのことを楽観的に考えているのね」

「そう？」

「幼馴染感覚が抜けていないというか、なんというか」


　そうなのだろうか。


　だって、ユーリだ。

　いくら浮気をしようが酷いことを言おうが、ユーリはユーリのはずだ。


　一線は超えない。


　それくらいはちゃんとわかっているはずだ。


「あのねぇ」

　マーサは呆れたように言う。

「浮気も暴言も、全部一線超えてるのよ」

「でも、さすがに暴力を振るうなんてことは」

「恋は盲目なのよ、ウェンディ」

「コイハモウモク」

　私はマーサの言葉を復唱する。

「ユーリは、完全にあの男爵令嬢に入れ込んでいる。長年連れ添ってきた婚約者をさっさと捨てるくらいにはね」


　私は苦笑した。

「そんな奴が、自分たちの逢瀬をめちゃくちゃにする元親友をどうこうしないという保証はないわ」

「まあ……」

「現実的に考えられないのよ、恋って」


　マーサは、自分の考えに自信があるようだった。

　確かに、現実主義の私よりもマーサの方がいくらかその感情に詳しいはずだ。


　だから、私は彼女の意見に従うことにした。

「じゃあ、どうすれば良いの？」

「パトリックの家、知ってる？」


　私は目を見張った。

「行くつもり？　約束もなしに？」

「仕方がないじゃない。この際、大事なのはマナーじゃなく、彼の安否よ」


「まあ、確かに……。そうね」