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掲示板①

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 その日の朝、私は靴箱に自分の分のローファーを片付けていた。


 すると誰かが肩ををバンバンと力一杯叩いてきた。


「痛っ!」


 私は悲鳴を上げた。

「ちょっと、何すんのよ!」


 私は振り返る。


 私の肩を思いっきり叩いていたのは、久しぶりに見るトニーだった。



 彼は真っ青な顔で口をぱくぱくと動かしている。


 急に言葉が使えなくなったみたいだ。


「痛いんだけど。なんの用?」


 私はトニーに尋ねた。


「君が、君が……」

「何?」

「君が、やったのか……?」

「はい?」


 彼は、それ以上何も言えないようだ。


 私は彼が何を言っているのか全くわからない。


 「だから、何よ」


 私はイライラしていた。


 トニーにかまけている時間は今の私にはない。


 1時間目の授業で、隣国の言語の単語テストがあるのだ。


 私はなんとしてもそのテストで満点を取りたい。


 だから、ここでぐだぐだしている暇などなく、私はさっさと教室へ向かって、単語テストの勉強したいと思っている。


 担当の先生がとても厳しく、私たちはいつも半泣きになりながら、授業受けていた。


 単語テストで満点を取らなければ、私は、あの先生から怒られてしまう。


 それがめちゃくちゃ嫌。


「何もないんだったら、私行くから」

「ちょっと」


 私はトニーの手を振りほどき、上履きに履き替える。


「ちょっと待って!」

「うるさいわね。私は単語テストの勉強がしたいの」

「数分だけ」

「ホームルーム始まるまでにあと10分しかないのよ! 無理!」


 私は駆け出し、トニーを撒こうとする。


 ――だが。


「ついてこないでよ!」


 生粋の貴族の子息子女である私は、廊下を走ることが出来ない。

 そんなはしたない行動を許されていない。


 そのせいで、私は速足で廊下を渡らなければならず、トニーを完全に撒くことが出来なかった。


「ウェンディ、本当に、話を」

「嫌!」

「じゃあ、アレ、アレ見てよ!」


 トニーは私の首根っこを掴み、私の斜め前を指さした。


「ぐえっ」


 制服の襟で首が締まり、令嬢らしからぬ声が出る。

「辞めてってば!」

「ほら、これ!」


 トニーは掲示板をものすごい勢いで叩く。

「は?」


 私は仕方がなく、掲示板に貼られた紙を見て、固まった。

「えっ?」


 見たことのある文字である。


 「貴族新聞」。


 パトリックが、私とマーサに教えてくれた、庶民の新聞だ。


 そこには、最近よく見る文字列。


 ユーリ、ヒメナ、公爵家、男爵家、浮気、婚約破棄……。


「ユーリとヒメナのことが、新聞に載っているんだ! 実名付きで!」


 
 




 

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