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パトリック

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「嫌だ」

「でしょうね」


 次の日、早速マーサと共にパトリックに会いに行った。

 教室でぼんやりと外を眺めていた彼は、案の定私たちの要望を却下した。


「まあ、駄目元だしね」

 私は言う。

「ごめんなさい、パトリック。親友の女を奪うなんてそんなこと、あなたが出来るわけないもの」

「違う」

 無口な彼はそれだけ言って首を横に振る。


「そうじゃない」

「そうじゃないなら、何よ?」

 と、マーサ。

「僕、あの女苦手なんだよ」

「苦手?」


 パトリックは苦々しげな表情で、吐き捨ているように言った。

「……色目使ってくるんだ」

「う、うわぁ……」


 私はどん引きする。

「あの子、ユーリがいるのに、そんなことまでして」

「ユーリと付き合う前のことだ。最初は僕を狙ってたみたいだけど、あの2人は波長があったみたいだね」

「詳しいのね」

「振り向かなかった僕に対して、当てつけするかのようにあの女が定期的に報告しに来るんだーーだけど、残念だったね。僕とユーリはもう仲違いしている。だから、その計画の親友枠にはどうも入れそうもないよ」


 彼は次の授業の準備をし始める。

「なんで仲違いしたの?」

 そう聞くと、彼はその手を止めた。

「……君は、婚約者をないがしろにした挙句、他の女とイチャイチャしだす人間と友達でいられる?」

「それはそうでした。ごめんなさい」


 ということは、マーサの計画は破綻することになる。


 それが悔しいのか、マーサは唇を噛んでいた。


「とりあえず、あの馬鹿を一発ぶん殴りたいってことだよね? 合法的に」

 と、パトリックは言う。


「ええ、そうなんだけど」

「じゃあさ、こう言うのはどうかな?」


 パトリックは、その端正な顔を私たちに向ける。

「貴族新聞に載せてもらうんだよ。ユーリとヒメナの所業を」

「貴族新聞?」


 私とマーサは首を傾げる。

「何それ?」

「最近、庶民たちの間で流行っている新聞さ。貴族たちをひたすらおちょくっているんだ。それで一部の人間から目の敵にされているんだけど、まあそこが最高でさ」


 突如として、パトリックは饒舌になる。

「貴族のちょっとした揉め事でも面白おかしく書くんだ。そこに匿名でこのネタを出せば、貴族の間だけでなく、庶民全体にも知られる。あいつの面目は丸潰れだ」
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