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話①

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 兄の部屋は、私の部屋のはす向かいにある。


 かつては隣同士の部屋だったが、ある日兄が両親に、

「部屋を変えたい」

 と言って移動したのがそこだった。


 当時から既に私は引きこもりがちになっていて、そのせいか兄の引っ越しは、

「お兄様は引きこもりの私が嫌いなんだわ」

 というふうに解釈し、随分と落ち込んだのを覚えている。


 そのころからか、だんだん兄と私の中はギクシャクし始めていった。


 その兄の部屋の前で、私はカタリナと一緒に立っている。


「……カタリナ」

「はい。なんでしょう?」

「ノックしてくれないかしら? あと、お兄様にも声をかけてほしいの」

「それは構いませんが、良いのですか?」

「……」

「私がやってしまうと、後で私に、

『心の準備も整っていない段階でお兄様に声をかけるなんて酷い!』

 なんて文句を言わなければ良いですよ」

「……い、いやそんなことは――」


 言うかもしれない。


「それなら、ご自分で覚悟を決めてノックしてみれば」

「でも、でもね。怖いものは怖いっていうか」

「あなたのお兄様ですよ。あなたを取って食べたりなんてしません」

「それはわかってるんだけど」


 ここしばらく兄妹らしい会話をしていないので、正直とても荷が重い。

 だって相手はあの兄だ。

 私を散々詰った婚約者と同じタイプである。


「お兄様ってあの馬鹿と同じタイプだから怖くて――」

「誰が馬鹿だ」

「ひっ」


 突然扉が開き、中から背の高い男が出て来て私は飛び上がった。


「ひえっ」

「兄に向かってその態度はなんだ」


 その男――紛れもなく私の兄であるアルフレッドは、大袈裟にため息をついた。


「馬鹿だのなんだの、扉の向こうから良く聞こえていたぞ」

「あ、あ、あ、アルフレッドお兄様……。ご機嫌麗しゅう」

「下手くそな挨拶は良い。用があるんだろ? 俺に」


 お兄様は私たちを手招いた。

「ちょっとしたら剣術の稽古がある。それまでなら話を聞いてやっても良い」



 
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