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プロローグ
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私――伯爵令嬢アリエッタの目下の悩みは、とある男性につきまとわれていることだった。
彼の名前は、ラリー・モーガン。
彼は公爵である。
つまり、この国でも有数の大金持ちということだ。
ブロンドの髪で、端正な顔立ち。
身長も高く、スタイルも良い。
彼は、見た目だけは完璧だった。
そう、見た目だけは。
その容姿のせいで色んな酷い目に遭ったのだろうか、彼は極度の人嫌いだった。
パーティ会場でもその他のイベントでも、私は彼の姿をほとんど目にしたことがない。
たまに目撃することがあっても、心底嫌そうな顔で壁の花になっているだけ。
人嫌いの変わり者公爵というのが、彼に対する印象だった。
そんな彼に、一体どうしてストーカーされるようになったのか。
そのきっかけは、多分数ヵ月前にあった国王陛下のお誕生日パーティだったと思う。
陛下の誕生パーティには、貴族たち全員に出席義務があった。
私も両親と弟と一緒に参加したし、彼もそうだったはずだ。
私も正直、人の多いパーティは苦手だった。
いろんな人と会話しなくちゃいけないし、気を遣う必要も出てくる。
少し人酔いした私は、城の外にある庭園へ向かう。
外の空気を吸って気分転換しようとした矢先、私はモーガン公爵と出会った。
彼はベンチの横で、蹲って吐いていた。
酸っぱい臭いが、周囲に充満していた。
酒を飲んでいるふうには見えなかったから、きっと彼も人酔いしたのだろうと思った。
私は少し、彼に同情する。
私だって、あそこじゃ人酔いを起こす。
人嫌いの彼だったら、耐え切れないだろう。
私は彼にハンカチを差し出した。
「どうぞ。これ、お使いください」
「……」
彼は無言でそれをひったくり、口元に当てる。
なかなかよくなる気配がなかったので、私はパーティ会場に戻り、グラスに水をなみなみと注いだ。
「飲んでください。さっき入れたところなので」
「……ありがとう」
ここで初めて、彼は私にお礼を言った。
蚊みたいにか細い声だったけど。
「大変でしたね」
私は彼に、労いの言葉をかけた。
「私も人酔いするので。少しわかりますわ――しばらくここで、ゆっくりなさってください」
かける言葉としては、至って普通のものだったと思う。
何も間違ったことは言っていないはずだし、ストーカーされるほど意味深な言い回しもしなかった。
だけどその言葉が、彼のなんらかのスイッチを押してしまったことだけは確かだった。
こうして。
その日以降、私は彼にずっとつきまとわれるようになったのだ。
彼の名前は、ラリー・モーガン。
彼は公爵である。
つまり、この国でも有数の大金持ちということだ。
ブロンドの髪で、端正な顔立ち。
身長も高く、スタイルも良い。
彼は、見た目だけは完璧だった。
そう、見た目だけは。
その容姿のせいで色んな酷い目に遭ったのだろうか、彼は極度の人嫌いだった。
パーティ会場でもその他のイベントでも、私は彼の姿をほとんど目にしたことがない。
たまに目撃することがあっても、心底嫌そうな顔で壁の花になっているだけ。
人嫌いの変わり者公爵というのが、彼に対する印象だった。
そんな彼に、一体どうしてストーカーされるようになったのか。
そのきっかけは、多分数ヵ月前にあった国王陛下のお誕生日パーティだったと思う。
陛下の誕生パーティには、貴族たち全員に出席義務があった。
私も両親と弟と一緒に参加したし、彼もそうだったはずだ。
私も正直、人の多いパーティは苦手だった。
いろんな人と会話しなくちゃいけないし、気を遣う必要も出てくる。
少し人酔いした私は、城の外にある庭園へ向かう。
外の空気を吸って気分転換しようとした矢先、私はモーガン公爵と出会った。
彼はベンチの横で、蹲って吐いていた。
酸っぱい臭いが、周囲に充満していた。
酒を飲んでいるふうには見えなかったから、きっと彼も人酔いしたのだろうと思った。
私は少し、彼に同情する。
私だって、あそこじゃ人酔いを起こす。
人嫌いの彼だったら、耐え切れないだろう。
私は彼にハンカチを差し出した。
「どうぞ。これ、お使いください」
「……」
彼は無言でそれをひったくり、口元に当てる。
なかなかよくなる気配がなかったので、私はパーティ会場に戻り、グラスに水をなみなみと注いだ。
「飲んでください。さっき入れたところなので」
「……ありがとう」
ここで初めて、彼は私にお礼を言った。
蚊みたいにか細い声だったけど。
「大変でしたね」
私は彼に、労いの言葉をかけた。
「私も人酔いするので。少しわかりますわ――しばらくここで、ゆっくりなさってください」
かける言葉としては、至って普通のものだったと思う。
何も間違ったことは言っていないはずだし、ストーカーされるほど意味深な言い回しもしなかった。
だけどその言葉が、彼のなんらかのスイッチを押してしまったことだけは確かだった。
こうして。
その日以降、私は彼にずっとつきまとわれるようになったのだ。
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