上 下
65 / 86
第5章

大工事

しおりを挟む
「どうしたものか」


 ウル殿下は、自分の席でそう唸っていた。

 彼が手に持っているのは、1枚の用紙。


 マハナ国で行われる大工事の資料だ。

「どうしました?」


 私は傍にいた彼の側近のケイキに配慮しつつ、殿下に尋ねる。

「足りないんだよ」

「何がですか?」

「全部だ」


 殿下は、私の机に投げ捨てるかのようにして資料を置く。


 それをじっくり読み込んだ私は、彼の言葉に納得した。


「確かにそうですね」


 足りない。

 そう、すべてが。


 環境を整える上で必要になってくる物や人材が、圧倒的に足りない。


 こちらとしては今すぐにでも工事を始めたいと考えているが。


 物事はそんなに甘くない。


 まず、マハナは貿易することを禁じられている。

 足りない物資を他国から購入することが出来ない。


「それに」

 と、殿下は補足する。

「問題は人材だーー工事を行う上で、専門知識を持つ人間が少な過ぎる」


 人は多いのだ。

 公共事業を行えば、人は仕事を求めてやって来る。

 人は賄える。

 しかし、土木工事を行うための専門家がいない。


 この国は、圧倒的に知識人が少な過ぎる。


「他国から人材を派遣してもらうのはどうでしょうか?」


 と、ケイキ。

「それなら、人材の件は解消出来るかと」

「でもなあ」


 しかし、殿下は腑に落ちないようだ。

「出来るだけこの国で収めたい。他国の力は借りたくないんだ、俺は」


 気持ちはわかる。


 他国と距離を置きたいというわけではなく。


 それなりの距離感で付き合っていくには、その人材派遣は不適当ではないかという考えだ。


 この国はパイナップル、チョコレートという食品で世界に注目され始めたものの、未だに弱小国である。


 いつどこで、どの国の植民地にされるか分からない状況。


 下手に他国に助けを借りれば、その国の発言力がマハナで大きくなり、気づけば乗っ取られる可能性もある。


 殿下はそれを危惧しているのだ。


「他国に手を借りたいという気持ちはやまやまだが、今はその段階じゃないと思ってる」


 と、殿下。


 しかし、それならまた話は逆戻りだ。


 やはり、人材の問題を解決するためにはーー。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

公爵閣下のご息女は、華麗に変身する

下菊みこと
ファンタジー
公爵家に突然引き取られた少女が幸せになるだけ。ただのほのぼの。 ニノンは孤児院の前に捨てられていた孤児。服にニノンと刺繍が施されていたので、ニノンと呼ばれ育てられる。そんな彼女の前に突然父が現れて…。 小説家になろう様でも投稿しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

処理中です...