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第4章

ある令嬢の日常② ~モブ視点~

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「チラッと伺った限りではございますが」

 メイドは言う。

「それは宝石のように美しい『チョコレート』というものだそうで」

「チョコレート?」


 ほかの令嬢と同じく、それなりにお菓子に関しては嗜みのある私だけれど。


 チョコレートなどという食べ物は、一度も聞いたことがない。

「南国のお菓子だそうですよ」

「ああ……」


 私は思い出す。

「パイナップル」

「はい」

 と、メイド。

「そのパイナップルの生産国であるマハナ産のものにございます」


 パイナップル。


 つい先日まで、そのマハナ産のパイナップルが食卓に並んでいた。


 ブローディア産のものではなく、マハナ産をわざわざ購入していた理由は――。

 お母様の趣味だ。


 お母様は最近、オーガニックとか天然とか、出来るだけ人の手の加えられていない「天然」物にハマっている。


 正直、確かに味は天然物の方が美味しいと思う。

 舌の肥えている公爵家の令嬢が言うのだから、間違いない。


 しかし、そのマハナ産は、ブローディア産に対抗して広告を出している商品であり。


 それはつまり、ブローディアの「敵」だということだ。

 プライドの高いブローディア側は、それを認めたくないだろうけど。


 つまり、お母様がその「敵」側の商品を購入しているということは――。


 公爵家である私たちが、陰でブローディアを裏切っていると見られても仕方のない行為だ。


 私はあのころ、ひやひやしながらパイナップルを口に運んでいた。


 そのブローディアがとうとう先日、マハナ国を世界貿易の枠組みから除外する決断を下した。


 つまり、もう二度とブローディアではマハナの商品を手に入れることは出来ない。

 それなのに――。


「それって」

 私は顔をしかめた。

「お母様、罪を犯そうとしているんじゃないでしょうね」


 それは非常に困る。

 本当に困る。


 これはバレてしまえば、第三王子の婚約者としての立場がなくなる。

 下手すれば、ただの行き遅れの令嬢になってしまう。


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