14 / 86
第1章
初日
しおりを挟む
私とウル殿下は、王座の間に向かっていた。
むろん、マハナ国王夫妻への挨拶という理由でだが、久しぶりに熟睡したというウル殿下の爽やかぶりとは対象的に、私は最悪の気分である。
頭痛が酷かったのだ。
それはひとえに、このウル殿下が私を寝かせようとしなかったからだ。
……いや、こんなことを言えば語弊が生じる。
そう思えるほどにまで、私はウル殿下に英才教育を施された。
彼曰く、そんなに本を読んでいるのにも関わらず、知らなかったことが奇跡らしい。
なにが奇跡だ。
知らない方が良かった。
そう心底思うものの、やはり王子夫妻となるにあたってはどうしても覚えなければならない基礎知識であり、かつ本来ならば時間をかけてゆっくりと習得、暗黙の了解となるそれが一気に頭に叩き込まれたせいで、私は頭が冴えて眠れなくなってしまった。
逆に悩みを解決出来たウル殿下は、私に全てを教え切ると、さっさとベッドで睡眠を楽しんでいた。
その幸せそうな寝顔を見つつ、いつこの男を刺してやろうかと怒りに満ち溢れながら、私は朝を迎えてしまったのだ。
「大丈夫か? マーガレット」
しっかり熟睡したウル殿下は、なんの悩みも抱えていなさそうな顔で私に尋ねてきた。
「寝れなかったのか? 随分と眠そうだが」
他人事のように言うウル殿下に向かい、私は何も答えずに恨みを込めて睨んだ。
「……っ」
その様子を見ていた、私の召使いたちが顔を赤らめる。
違う。断じて違う。
想像しているようなことは一切起こっていない。
「いやあ、昨日のマーガレットは可愛かったなあ」
「ちょ、ちょっと!」
そのことを知ってか知らずか、いや確実に気づいてさらに場を荒らしたがる子どもみたいな殿下は、もっと誤解されるようなことを言い出した。
「変なこと言わないでくださいよ、誤解されるでしょう」
「おや? 誤解って、昨日まではあんなに純粋無垢だったあんたからそんな言葉が聞けるとはな」
召使いたちは、口元に手を押し当て、今にも悲鳴を上げんばかりだった。
これ以上反論しても、ますます状況は悪くなるばかりだろう。
私はもう口ごたえをせず、その代わり大袈裟にため息をついた。
話を変えて、私が早朝に驚いたのは、マハナの王宮の朝がとてつもなく早いということだ。
ブローディアでは昼になるころに皆が働きはじめていたのだが、この国は私が活動し始める時間が来る前から、仕事をしている人がちらほら見えている。
もともと勤勉な国民気質なのだろう。
私たちが今廊下を歩いている時間も、まだ日が差し込んだばかりのころであったし、その私たちに追随する召使いたちや、それを迎える兵士たちも、寝起きというような雰囲気ではなかった。
「ウル殿下、マーガレット様。どうぞこちらへ」
待機していた兵士が、私たちを一枚の豪勢な扉の前まで案内した。
「ここは?」
「俺の両親の部屋だ」
ウル殿下は言う。
「王座の間には行かないのですか?」
「ここがそうなのさ。国王は自室で政治を行うことになっている」
むろん、マハナ国王夫妻への挨拶という理由でだが、久しぶりに熟睡したというウル殿下の爽やかぶりとは対象的に、私は最悪の気分である。
頭痛が酷かったのだ。
それはひとえに、このウル殿下が私を寝かせようとしなかったからだ。
……いや、こんなことを言えば語弊が生じる。
そう思えるほどにまで、私はウル殿下に英才教育を施された。
彼曰く、そんなに本を読んでいるのにも関わらず、知らなかったことが奇跡らしい。
なにが奇跡だ。
知らない方が良かった。
そう心底思うものの、やはり王子夫妻となるにあたってはどうしても覚えなければならない基礎知識であり、かつ本来ならば時間をかけてゆっくりと習得、暗黙の了解となるそれが一気に頭に叩き込まれたせいで、私は頭が冴えて眠れなくなってしまった。
逆に悩みを解決出来たウル殿下は、私に全てを教え切ると、さっさとベッドで睡眠を楽しんでいた。
その幸せそうな寝顔を見つつ、いつこの男を刺してやろうかと怒りに満ち溢れながら、私は朝を迎えてしまったのだ。
「大丈夫か? マーガレット」
しっかり熟睡したウル殿下は、なんの悩みも抱えていなさそうな顔で私に尋ねてきた。
「寝れなかったのか? 随分と眠そうだが」
他人事のように言うウル殿下に向かい、私は何も答えずに恨みを込めて睨んだ。
「……っ」
その様子を見ていた、私の召使いたちが顔を赤らめる。
違う。断じて違う。
想像しているようなことは一切起こっていない。
「いやあ、昨日のマーガレットは可愛かったなあ」
「ちょ、ちょっと!」
そのことを知ってか知らずか、いや確実に気づいてさらに場を荒らしたがる子どもみたいな殿下は、もっと誤解されるようなことを言い出した。
「変なこと言わないでくださいよ、誤解されるでしょう」
「おや? 誤解って、昨日まではあんなに純粋無垢だったあんたからそんな言葉が聞けるとはな」
召使いたちは、口元に手を押し当て、今にも悲鳴を上げんばかりだった。
これ以上反論しても、ますます状況は悪くなるばかりだろう。
私はもう口ごたえをせず、その代わり大袈裟にため息をついた。
話を変えて、私が早朝に驚いたのは、マハナの王宮の朝がとてつもなく早いということだ。
ブローディアでは昼になるころに皆が働きはじめていたのだが、この国は私が活動し始める時間が来る前から、仕事をしている人がちらほら見えている。
もともと勤勉な国民気質なのだろう。
私たちが今廊下を歩いている時間も、まだ日が差し込んだばかりのころであったし、その私たちに追随する召使いたちや、それを迎える兵士たちも、寝起きというような雰囲気ではなかった。
「ウル殿下、マーガレット様。どうぞこちらへ」
待機していた兵士が、私たちを一枚の豪勢な扉の前まで案内した。
「ここは?」
「俺の両親の部屋だ」
ウル殿下は言う。
「王座の間には行かないのですか?」
「ここがそうなのさ。国王は自室で政治を行うことになっている」
0
お気に入りに追加
648
あなたにおすすめの小説
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる