白い結婚を望む私は、女好きの公爵の元へ嫁ぐことにしました ～溺愛されるなんて話が違う～

第1章

お土産

　断りたかった。

　お腹が空いているわけではもちろんなかったし、変な時間に食事をすれば、夕食が胃袋に入らなくなる。


　それに、確実に太ること間違いなし。


　こう見えて、結構食事にはうるさいのだ。


　だけど、私はそれを了承した。

　妻としての役目だと思ったから。


　どういう風の吹き回しで、この男が私にお土産を買ってきたのかは知らない。

　だけど、妻として彼の茶番に付き合うのも、これから先必要なことだろう。


「そうか、わかった」

　アレクセイはそう言って、私の部屋に小さな紙袋を持ってくる。


　彼はジジに、

「紅茶を用意してくれ。2人分だ」

　と頼み、テーブルに自らお菓子を並べ始める。


「私がしますよ」

　一応そう声をかけたが、

「いや、自分でやります……。いや、やる」

　と、皿にクッキーとショートケーキを乗せた。


　紙袋には、見たことのあるロゴが書かれていた。


　最近人気の店で買ってきたようだ。


　彼はお菓子を準備し終えると、私の目の前に腰かけた。


「……」

「……」

「……」

「……」

「……あの」

「な、なんだ？」

「どうして、敬語じゃないんですか？」


　聞いてしまって、それが言葉足らずだったことに気づく。


「あっ、すみません。そういう意味じゃなくってですね、えっと……。前にお話ししたとき、敬語だったじゃないですか？」

「ああ、うん」

「そのときは流暢に話されていたのに、今はその、凄く言いづらそうだなと」


　話しやすいのであれば、私は全然敬語を使ってもらっても構わない。


　なぜ彼は急に、砕けた口調を使い始めたのだろうか。


「ああ、えっと」

　彼は頭を乱暴に掻いた。

「俺たち、夫婦ですから。その、少しでもそれっぽくなればいいかと」


　なるほど。


　私は、彼の端正な顔をまじまじと見つめる。


　こういう気さくなところが、世の女性たちを虜にしているのか。