女勇者に婚約者を寝取られたけど、逆に彼女の恋人を奪ってやった

男爵

「ご、ご主人様！」


　門番は、その現れた若い男に深いお辞儀をした。

「お、お仕事では？」

「仕事は終わった」


　一見爽やかふうのこの男が、噂のバーン男爵なのだろうか。

　私はまじまじと見つめる。


「その方は？」

　男爵は門番に尋ねた。

「その女は――」

「恐れながら申し上げます」

　私は門番の言葉を遮る。


　鬼のような形相で私を睨んでくるが、無視する。

「はあ」


　男爵は、ポカンとした顔でいきり立っている私を見つめる。

「君は？」

「私はジュリアナと申します。あなたは、バーン男爵様でよろしかったでしょうか？」

「ああ、そうだけど……」

「お伺いしたいのは、あなたの恋人の件です」

「恋人」


　その言葉を聞いた途端、表情が曇る男爵。

「あなた様が女勇者とお付き合いしているとお聞きしました」


　私は淡々と告げる。

「お間違いないですか？」

「まさか――」


　男爵は私の問いに応えなかった。

「君が、あのジュリアナ？」

「どの話をしているのかはわかりかねますが、私の名前はジュリアナです」

「そうか……」


　男爵は、門番に命令する。

「門を開けてくれ」

「は？　ですが」

「彼女は私に用があって来たんだ。屋敷に丁重に迎え入れたい。さあ、早く」

「は、はい。承知いたしました」


　彼は門を開ける。

　ギギ―ッと油の差していない、金属がこすれ合う音が辺りに響く。

「……失礼しました。どうぞ、お通りください」


　門番の悔しそうな顔を尻目に、私は男爵に連れられて屋敷の中に入っていった。