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門番

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 王都に到着した私は、御者にお金を払って下車した。

「それじゃあ、買い物楽しんでね」

 と言って歩き去る貴婦人に手を振り、私は中心部に向かう――わけではなく。

 そのまま引き返して、バーン男爵家の屋敷へと向かう。


 男爵の家は王都の入り口付近だ。

 貴族とは言いつつも、男爵はその中でも一番下の階級。

 必然的に、城から離れた場所に住むことになっている。


 しかし、だからと言って――。

 男爵はあくまで貴族だった。


 私の実家もそこそこ広いはずなのに、彼の家を見たら、もうゴミ箱にしか見えなくなってしまう。

 それほど、大きな家だった。


 私は驚き、尻込みする。


 ここに女勇者の恋人がいるのか。


 あくまで市井の私と、貴族という高みにいる男爵。

 圧倒的差に、かっかしていた私の怒りは急速に冷え込んでいった。


「おい、お前」


 私が屋敷の門の前でウロウロしていたのを見かねて、門番が声をかけてくる。

「バーン男爵様に何か用なのか?」

「は、はい」


 私はまごまごしつつ、鞄から手紙の束を取り出す。

「なんだそれは」


 男は顔をしかめた。

「男爵様にそれを渡すつもりか?」

「見てほしいんです。これを――」

「帰れ」

「は?」


 私は驚愕する。


 訪問者をそんな雑に扱うなんて。

 私まだ、説明してないのに。


「男爵様に色目を使うつもりだろう。ご主人様には恋人がいらっしゃるのだ。お前の出る幕はない」

「いやいやいやいや、それは知ってますって。噂が広まってますし」

「ならなおさらだ。立ち去れ」

「いやいやいや、人の話を聞いてください。別に口説きに来たわけでは」

「うるさい女だな。それ以上喋ると、斬り殺すぞ」


 怖っ。

 何この男。

 怖っ。


「は?」


 恐怖と同時に、先ほど消滅しかけていた怒りが復活する。

「男爵ならまだしも、同じ一般庶民の人間に雑に扱われたくないんですけど」

「俺は男爵から信用され、門番を任されている。お前のような人間と一緒にするな」

「うわっ、性格悪っ。ほかの人間見下す奴って最低よ。どういう脳みそしてのかしら」

「……文句あるのか? 殴り合いなら受けてやるぜ」

「わあ、女に暴力振ろうとするんだ。すごい人間性ね」

「あ?」


 2人で罵り合っていると――。

「どうしたんだ?」


 屋敷の方から、若い男の声が聞こえた。

「誰か屋敷に来ているのか?」


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