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第2章
食事②
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「オリビア様……?」
扉の前で硬直した私を、レイモンドは伺う。
「どういたしましたか?」
はっと、私は我に代わる。
「い、いえ。な、なんでもないです……」
これが普通なのか……?
私は助けを求めて、レイモンド以外の人影を探した。
私の立ち尽くした扉のすぐ隣に、使用人たちが待機している。
彼らは無表情だった。
今何を考えているのか、全く読めない。
ただ、まるでこれが日常的なものであるかのような雰囲気を醸し出している。
金を湯水のように使う我が公爵家でも、食事は残すのが当然といったばかりに大量に作らせて残飯を生み出していた私の実家でも、これほどの量の食事がテーブルに並んだことはなかった。
私は眼を擦った。
もしかすると、私は幻覚が見えているのかもしれない。
本当は通常の食事量なのに、急に目が誤作動を起こして視界が2重になったりなんかして――。
だが、目を擦っても見開いても瞬きしても、目の前のおびただしい量の食事は変わらなかった。
「オリビア様、いかがなさいましたか?」
本格的に心配になったのか、レイモンドは立ち上がり、私に近づく。
「体調がお悪いのですか?」
「い、いえ。大丈夫です」
私はレイモンドの方を見ずに返事をした。
「そうですか。それは良かった」
「……あの、すみません」
私は質問する。
「なんでしょうか?」
「あの量を毎日お召し上がりに?」
「食事量のことですか?」
レイモンドはこともなげに言う。
「はい」
「まさか。毎日は食べませんよ!」
はっはっはっと笑うレイモンド。
私は少しほっとする。
なんだ。
毎日じゃないのか。
「普段はもう少し多いのですが、今日はどうやら我が領地の収穫が少なかったようでして。心配せずとも、いつもはこれの1.5倍は食べております」
「ひぇっ」
私は思わず後ずさった。
なんとか席につき、挨拶をして食事を取り始める。
椅子に座って気づいたことは、積み上げられた料理のせいで、向こう側に座るレイモンドの身体が1部たりと見えないということだ。
私はとりあえず、目の前のよくわからない大きな肉料理を食べ始める。
だが、途中で胸焼けした。
もう1口だって食べられない。
何度か吐き気をこらえつつ、私はぼんやりと虚空を見つめた。
無理だ。
こんなの食べれっこない。
しかし、目の前のレイモンドは、とても美味しそうにパクパクと口の中に料理を放り込んでいく。
その様子を見つめていると、ここが異次元のような気がしてきた。
このアンダーソン領に住む人たちは、これくらい食べるのが普通なのではないか。
もしかすると私がおかしいのかもしれない。
私が小食過ぎるのかもしれない。
私が呆然としている間に、みるみるうちに山のようにあった料理は順調に削り取られていった。
新品同様の大皿が、シャンデリアの光でキラキラと輝いている。
「ご馳走様」
満足げな表情で、そう言うレイモンド。
私は思った。
だから太るんだよ。
扉の前で硬直した私を、レイモンドは伺う。
「どういたしましたか?」
はっと、私は我に代わる。
「い、いえ。な、なんでもないです……」
これが普通なのか……?
私は助けを求めて、レイモンド以外の人影を探した。
私の立ち尽くした扉のすぐ隣に、使用人たちが待機している。
彼らは無表情だった。
今何を考えているのか、全く読めない。
ただ、まるでこれが日常的なものであるかのような雰囲気を醸し出している。
金を湯水のように使う我が公爵家でも、食事は残すのが当然といったばかりに大量に作らせて残飯を生み出していた私の実家でも、これほどの量の食事がテーブルに並んだことはなかった。
私は眼を擦った。
もしかすると、私は幻覚が見えているのかもしれない。
本当は通常の食事量なのに、急に目が誤作動を起こして視界が2重になったりなんかして――。
だが、目を擦っても見開いても瞬きしても、目の前のおびただしい量の食事は変わらなかった。
「オリビア様、いかがなさいましたか?」
本格的に心配になったのか、レイモンドは立ち上がり、私に近づく。
「体調がお悪いのですか?」
「い、いえ。大丈夫です」
私はレイモンドの方を見ずに返事をした。
「そうですか。それは良かった」
「……あの、すみません」
私は質問する。
「なんでしょうか?」
「あの量を毎日お召し上がりに?」
「食事量のことですか?」
レイモンドはこともなげに言う。
「はい」
「まさか。毎日は食べませんよ!」
はっはっはっと笑うレイモンド。
私は少しほっとする。
なんだ。
毎日じゃないのか。
「普段はもう少し多いのですが、今日はどうやら我が領地の収穫が少なかったようでして。心配せずとも、いつもはこれの1.5倍は食べております」
「ひぇっ」
私は思わず後ずさった。
なんとか席につき、挨拶をして食事を取り始める。
椅子に座って気づいたことは、積み上げられた料理のせいで、向こう側に座るレイモンドの身体が1部たりと見えないということだ。
私はとりあえず、目の前のよくわからない大きな肉料理を食べ始める。
だが、途中で胸焼けした。
もう1口だって食べられない。
何度か吐き気をこらえつつ、私はぼんやりと虚空を見つめた。
無理だ。
こんなの食べれっこない。
しかし、目の前のレイモンドは、とても美味しそうにパクパクと口の中に料理を放り込んでいく。
その様子を見つめていると、ここが異次元のような気がしてきた。
このアンダーソン領に住む人たちは、これくらい食べるのが普通なのではないか。
もしかすると私がおかしいのかもしれない。
私が小食過ぎるのかもしれない。
私が呆然としている間に、みるみるうちに山のようにあった料理は順調に削り取られていった。
新品同様の大皿が、シャンデリアの光でキラキラと輝いている。
「ご馳走様」
満足げな表情で、そう言うレイモンド。
私は思った。
だから太るんだよ。
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