社畜系公爵令嬢は、婚約破棄なんてどうでも良い

記憶

　余談だけど――。


　私には、前世の記憶がある。

　生まれたころはまだはっきりしていたけれど、今はもうかなり薄れてきた。

　完全に忘れる前に書いた前世の記憶のメモを参考にしつつ、今回は私の前世に関しての話をしたいと思う。


　前世の私は「日本」という異世界にある国で生きていた。

　1人の女性として生まれ、学校に通い、就職した。

　その就職先の上司と結婚した私は、寿退社し、２男１女の子どもを育て上げる。

　ガンになった夫を見取り、その後は1人で生きていった。

　最後には、子孫に囲まれて病院のベッドで老衰死。


　成功したとは言えない人生だけど、それでも幸せだったのを覚えている。


　こういう前世の経験がここで役に立つのではないかと思った時期もあった。

　だけど、前世の私はしがないただの専業主婦で、おばあちゃん。


　私の知識など、一般家庭の家事くらいしかない。


　だけど、人生観ならある。


　人は、1人では生きていけないという考えだ。


　いくら能力のある人間だとしても、必ずそこには限界が生じる。

　人間はあくまで人間で、神ではない。


　与えられた仕事を1人でこなすことはもちろん出来ない。


　――というのが、100年近く生きてきた私の結論だった。

　
　だからこそ、あんな大量に仕事を任されても、きちんとほかの人たちに配分する。

　私1人で、あの量はこなせない。


　自分の力量をきちんと把握し、部下たちの能力を信頼する。


　これこそが、上に立つ人間の心得だと、私は思っている。