社畜系公爵令嬢は、婚約破棄なんてどうでも良い

屋敷

「ただいま！」


　屋敷についた私は、早速両親からもらった執務室に入る。


　そこには、既に2人が自分の席について一心不乱に仕事をしていた。

「あれ？」

「おかえりなさい！　クレアお嬢様」


　全員がバッと顔を上げ、私に挨拶する。

「お嬢様、どうなさったのですか？」


　そのうちの1人ーー生真面目な性格のデイビッドが言葉を発した。


　彼はもともと城に勤務していた文官の端くれだったが、1ヶ月間ひたすら説得し続けて、我が家の事務係に引き入れたのだ。


「本日は卒業式ではなかったのですか？　卒業パーティーもあるから本日は仕事が出来ないと」

「抜け出してきたわ」

「は？」


　デイビッドは目を丸くする。

「お嬢様、さすがにそれは駄目ですよ。確かにたくさんのお仕事を抱えていらっしゃるお嬢様は、私が想像も出来ないほど大変なことは存じております。しかし、第一王子の婚約者としてそれなりの言動をしなければーー」

「その第一王子に、婚約破棄されたの」

「えっ……」


　硬直するデイビッド。

「えっ、そうなの！？」


　それとは対照的に、砕けた言葉を使う脳天気なジュリは、私の話を聞いてにっこにこだった。


　彼女も城で働く司書だったが、ジュリの異常なまでの知識量を評価して、デイビッドと同じタイミングで我が屋敷に招いたのだ。


「良かったあ。お嬢様、あの変な第一王子と婚約しなくて良かったね」

「お嬢様になんて口を！　……ですがまあ、それは本当にそうですね」


　2人は城で働いていたせいか、エイベル殿下の噂はよく耳にしていたようだ。


「とりあえず、その話は辞めましょう！」

　私は言う。

「まだ残ってるわよね？　仕事」

「「はい」」

「それを終わらせましょう！　今日中に」