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プロローグ

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 氷の華。


 これは、私ーー伯爵令嬢アデリーナの2つ名である。


 薔薇の棘のような美貌に、氷のように冷たい表情。

 まるで精巧な美しい機械人形だと人は言う。


 何が起こっても表情1つ変えない。

 誰に対しても冷徹。

 人の心がわからない。


 確かに綺麗だけど、人形みたいで怖い。

 どちらかと言えば愛嬌のある方が好きだな。


 それが、私に対する周囲の評価だった。


 冷たい氷の華。

 誰よりも人嫌いで人を寄せつけず、人を見下す悪の華。

 悪女という言葉が、正しくふさわしい。


 ーーなわけあるか。


 誰が人形ですって?

 
 こちとら、普通に生きてるんですけど。


 確かに私は美しい。

 それは認める、事実だ。


 烏の濡れ羽色のストレートロングヘアに、緋色の瞳、すっと伸びた鼻筋に毒林檎のように赤い唇。


 我ながら、本当に綺麗だと思う。

 もちろん両親からの遺伝でもあり、自分で磨き上げた努力の結晶でもある。


 昔は白豚だのなんだの散々罵られていたが、血のにじむような努力をしてここまで美しくなったのだ。


 それに、人の心を知らないなんてわけもなく。


 ちゃんと私は人だし、普通に生きてる。


 たまたま感情を出すのがちょっとばかし苦手で、家族からも、

「公爵令嬢として正しい振る舞い方を」

「感情を出さず、努めて冷静沈着でいるのですよ」

 なんて育てられてきている私は、非常に貴族的な人間ってだけだ。


 嫌なことがあったら怒るし、泣くときは泣く。


 それに、私は人を見下してるわけではない。

 ただ愚かな振る舞いをする人たちを注意しただけだ。

 別にやりたくてやってるわけじゃない。


 なだけ。


 私はハズレくじを引いた人間なのかもしれない。


 当然、この美貌と地位と賢さに関しては本当に良かったと思ってる。

 だけど、それ以外の部分ーー特に婚約者に関してはもう大ハズレ。


 私は密かにため息をつく。


 ああ、もう最悪。

 なんであんな馬鹿の婚約者になったんだろうか。


 いくら政略婚約と言えども、もっとマシな人間がいたはずじゃないのか。


 私はちらりと顔を上げる。


 その先に、ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべる婚約者が私を指差しているのが見えた。


「伯爵令嬢アデリーナ! 話がある!」


 
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