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7:魔導師として宮廷入りしたので、あの日の話をしませんか?

相手を想いすぎてすれ違うということ

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「ええ、そうですよ。私は生まれたときからこの国に命を捧げる日を待ちわびていたんですからね!」

 リシャールの怒りが込められた告白に、アルフォンシーヌもメルヒオールもびくりと身体を震わせる。次期王に相応しい、気迫があった。
 作った拳を胸元で震わせながら、リシャールは続ける。

「――それをあの日、思わぬ形で邪魔された。メルの成人の儀で生命を国に返し、メルにこの国を託すためにどれだけ準備をしてきたと思っているのです? 体内の残る魔力をすべて精霊王に返し、この土地と一体化することを、幼少期からずっとずっと教え込まされてきたというのに、メルの個人的な感情で邪魔された!」

 怒りのままにまくし立てて告げれば、リシャールはアルフォンシーヌに顔を向ける。その表情からは、アルフォンシーヌを抱いていたときの気遣いが微塵も感じられない。
 ただ憎しみがそこにあった。

「君もですよ、アルフォンシーヌ! 私はあの日、死ななければいけなかった。だのに、君が私を生かしたりするから計画が狂ってしまったではないですか! 中途半端に精霊王の加護を受ける身にされて、将来に変な期待を抱くようになって……ホント、君を消してやりたかった。メルがかばったりしなければ、そういう方法もあったのに!」
「殿下……」

 リシャールの言葉に、彼の本心を感じ取る。辛辣な言葉を選んでいるつもりなのだろうが、本気で言葉のままに思っているわけではない。

 たぶん……あの一件について恨む気持ちがあるのは本当だけど、心のどこかでは感謝だってしているのよね。

 リシャールはアルフォンシーヌに自分たちの恩人なのだと告げた。抱くときの気遣いや懺悔の言葉も、偽りではないと感じられた。恨むつもりはないと告げたときの表情も覚えている。
 彼はあの日に割って入ったアルフォンシーヌを恨んでいても、恨みきれていないのだろう。

 あたしはこの人を王にしてあげたい。

 彼の本当の望みは、国王になること。だから、メルヒオールのために王の椅子を譲ることではないはずだ。

「――なるほど……それが兄上の本心でしたか」

 怒りで熱くなったリシャールの声とは対照的に、メルヒオールのひんやりとした声が浴室に響いた。

「身勝手なのはどちらでしょうね?」
「ま、待ってください、メルヒオールさま! ちゃんと話し合いましょう!」

 責める言葉が続きそうな気配に、アルフォンシーヌはすかさず立ち上がって割り込んだ。
 メルヒオールの冷たい視線を受けて一瞬怯んでしまったが、心をふるい立たせ、懸命に言葉を紡ぐ。

「あたしは……その、口を挟めるような身分じゃないですけど、でも、メルヒオールさまは殿下を責めちゃいけない」

 アルフォンシーヌが告げれば、メルヒオールはふっと小さく笑った。

「おや、君は兄上の肩を持つんですね。俺からの愛がないと知って、想う相手を変えましたか」

 蔑み、拒絶する気持ちを前面に押し出すメルヒオールの顔を、アルフォンシーヌはしっかりと見つめた。彼の想いに負けないように、視線に自分の想いを込める。

「茶化さないで! あたしはそれでもメルヒオールさまを想っています! あなたの言葉や態度で傷ついたし、リシャール殿下としてしまったけれど、でも、心までは汚れてはいないわ。あなたに愛がないなら、あたしが愛せるようにして差し上げます。何が愛なのか、示します」

 リシャールを押し退けて、アルフォンシーヌはメルヒオールの前に立った。そして、メルヒオールの手を掴み、自身の薄い胸に引き寄せる。

「だから、諦めないでください。運命を変えるために、命を断つような真似はして欲しくない」

 メルヒオールが気圧されたのがわかった。
 でも、アルフォンシーヌの視界は歪んでしまって彼の細かな表情までは確認できない。

 泣いちゃだめよ、アルフォンシーヌ。

 心の中で自分を励ます声を必死にかけるが、涙が止まらない。
 彼らがそれぞれ何をしようとしていたのか、アルフォンシーヌは理解していた。
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