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5:魔導師として宮廷入りしたので、襲撃されても怯みません!

馬車の中という密室で 1

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 朝日が昇るころ、リシャール一行は出立した。アルフォンシーヌ襲撃という突発的な事件は起こったものの、行程どおりに帰路に着いたのだ。


 そして、ここは馬車の中である。
 ゆったりとした座席には丁寧に革が張られ、長旅を快適に過ごせるよう工夫されている。窓に取り付けられたカーテンは現在傍にまとめられており、単調な街道の景色と陽射しを眺めることが可能だ。わずかに開けられた窓からは涼しい風が入ってきていた。
 これがただの旅行であれば、これほど設備が行き届いた馬車で移動できる幸運を噛みしめるところだろう。
 しかし、アルフォンシーヌは頭痛を覚えていた。

 すごく気まずい。

 アルフォンシーヌは身の置き場のなさに、硬い笑顔を浮かべている。

「――私の膝の上かメルの膝の上かを選ぶだけですよ?」

 リシャールが楽しそうに尋ねてくる。太陽のように眩しすぎる笑顔だ。
 城に戻る馬車の中に、リシャール、メルヒオール、アルフォンシーヌの三人がいた。

「どちらも選びません。あたしはここで結構ですから」

 馬車は舗装がろくにされていない悪路を進むにあたって激しく揺れる。だが、アルフォンシーヌは立ったままを選択していた。

 なんでこんなことに……。

 御者の真後ろにあたる進行方向側の椅子にはリシャールが、後方側の椅子にはメルヒオールが腰を下ろして向かい合っている。殿下の提案と彼自身の安全確保のために、メルヒオールとアルフォンシーヌがこうして同乗することになったのだ。
 ちなみに、リシャールは行きもアルフォンシーヌを同乗させたかったらしいが、メルヒオールに却下されたという。そのために、帰りくらいはアルフォンシーヌと同乗させろとわがままを言いだしたのだ。
 そんな殿下に、弟子が粗相をしたら大変だからと物言いをつけた結果、三人で馬車に乗ることになってしまったのだった。
 なお、四人は乗れる大きな馬車なので、彼らのどちらかの上に座らずとも、隣に腰を下ろすことは可能である。

「ほら、立ったままでは疲れてしまいますよ。危険ではありませんか」
「お気遣い感謝いたします。ですが、心配無用ですから」

 昨夜のことがあって、メルヒオールの隣には座れず。かといって何かとちょっかいを出してくるリシャールの隣に座るわけにもいかない。

 いや、それ以前に、畏れ多くて隣に座るわけにはいかないんだけど。
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