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3:魔導師として宮廷入りしたので、これは予期せぬ事態です。
夢であれば 1
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夢であってほしかった。
「おはよう、アルちゃん」
目が覚めたとき、メルヒオールにどことなく似ているが、メルヒオールではない美青年の顔が近くにあった。
リシャール殿下……?
同じベッドの中にいたのは王位継承権第一位であるリシャールだった。
驚きのあまり目を見開き、アルフォンシーヌはベッドを出ようと身体を動かす。しかし、あいにく手首を拘束されたままだ。
手首の痛みで夢ではなかったことを確信し、すっと血の気が引いた。メルヒオールが指令で城を留守にしている間にとんでもないことになってしまったのだから。
あたし……リシャール殿下としてしまったの?
毛布から出ている彼の上半身が裸で、アルフォンシーヌは視線をそらす。
「やっ……殿下、こんな……戯れにしてはひどいですっ」
「戯れなんて、そんな。必要だからそうしたのです。それにメルには許可を得ていますよ?」
許可? 許可って何? あたしを差し出したってこと? あたしが弟子だから? メルヒオールさまが、あたしを?
宮廷魔導師として独り立ちしたら結婚するのではなかったのか。ますます混乱する。
「う、嘘よ! メルヒオールさまが、そんな」
相手が殿下だから逆らえなかったってこと? だとしても、あたしに話してくれないなんて、どうして?
よりにもよってメルヒオールが城外に出ているときに、それもアルフォンシーヌが眠っているところを拉致して、丁寧に拘束した上で襲うだなんてあんまりではないか――ふいに涙がこぼれた。
「ううっ……役目であるなら、仕事だと命じてほしかった……こんな、騙すみたいなこと……」
手首の痛みが胸の痛みと重なる。説明してくれていたら、覚悟できたのに。信用されていないということだろう。
溢れる涙を、リシャールは指先で優しく拭ってくれる。手が自由にならないのだからそうしてもらうしかない。
「すまない。君の負担を抑えるのが目的だったのです。穏便に済ませたかったから。君がメルと交わっている心地でいるのが最も望ましかった。結果的に途中で気づかれてしまったので、中途半端になってしまったのですが……」
「な、何をおっしゃって?」
中途半端になったと言われて、アルフォンシーヌはあることを思い出す。
魔導師同士の交わりによって何が行われるのか、を。
でも、リシャール殿下って……。
見つめていると、リシャールは申し訳なさそうな顔をして重々しい口ぶりで答える。
「君の魔力を私が使うために必要なのです」
「殿下は魔導師の適性がないと聞いていますけど」
この国を守護する精霊王の末裔と言い伝えられている王家の人間は、代々魔導師としての素質を備えている。その力の現れ方は様々であり、その時代の要請に応じた力を持って生まれるとされる。
現在の治世は戦さのない平穏な世であるためか、国王は人心掌握の魔法に優れており、攻撃魔法は不得手だ。
そして、現在の王位継承権第一位であるリシャールは、魔導師の適性がない稀有な王子である。それをこの国の平穏の象徴として歓迎する者もいれば、魔法国家の危機として憂う者もいた。
リシャールは苦笑する。
「ええ、魔力を失ってしまいましたからね。ですが、魔力を供給されれば話は別です。君がメルから受け取った魔力を、私が受け取るつもりでこのような場を設けました」
魔導師ではない殿下が魔力を必要としている……それって……。
自分の受けた仕打ちよりも、何かのっぴきならない局面を迎えているらしいことを察し、アルフォンシーヌは思考を巡らす。
「事情は説明していただけないのですか?」
「少々込み入った事情でしてね」
末端の人間は黙って魔力供給源となっておけということか。
腑に落ちなくて腹立たしいが、次期国王に逆らえるほどの後ろ盾はない。王族の命令は絶対だ。
不満な気持ちが表情に出ていたのだろう。リシャールは言葉を続ける。
「でも、君が私の妻になる覚悟があるのでしたら、全て明かしてもいいですよ?」
今、なんて言った? 妻?
「おはよう、アルちゃん」
目が覚めたとき、メルヒオールにどことなく似ているが、メルヒオールではない美青年の顔が近くにあった。
リシャール殿下……?
同じベッドの中にいたのは王位継承権第一位であるリシャールだった。
驚きのあまり目を見開き、アルフォンシーヌはベッドを出ようと身体を動かす。しかし、あいにく手首を拘束されたままだ。
手首の痛みで夢ではなかったことを確信し、すっと血の気が引いた。メルヒオールが指令で城を留守にしている間にとんでもないことになってしまったのだから。
あたし……リシャール殿下としてしまったの?
毛布から出ている彼の上半身が裸で、アルフォンシーヌは視線をそらす。
「やっ……殿下、こんな……戯れにしてはひどいですっ」
「戯れなんて、そんな。必要だからそうしたのです。それにメルには許可を得ていますよ?」
許可? 許可って何? あたしを差し出したってこと? あたしが弟子だから? メルヒオールさまが、あたしを?
宮廷魔導師として独り立ちしたら結婚するのではなかったのか。ますます混乱する。
「う、嘘よ! メルヒオールさまが、そんな」
相手が殿下だから逆らえなかったってこと? だとしても、あたしに話してくれないなんて、どうして?
よりにもよってメルヒオールが城外に出ているときに、それもアルフォンシーヌが眠っているところを拉致して、丁寧に拘束した上で襲うだなんてあんまりではないか――ふいに涙がこぼれた。
「ううっ……役目であるなら、仕事だと命じてほしかった……こんな、騙すみたいなこと……」
手首の痛みが胸の痛みと重なる。説明してくれていたら、覚悟できたのに。信用されていないということだろう。
溢れる涙を、リシャールは指先で優しく拭ってくれる。手が自由にならないのだからそうしてもらうしかない。
「すまない。君の負担を抑えるのが目的だったのです。穏便に済ませたかったから。君がメルと交わっている心地でいるのが最も望ましかった。結果的に途中で気づかれてしまったので、中途半端になってしまったのですが……」
「な、何をおっしゃって?」
中途半端になったと言われて、アルフォンシーヌはあることを思い出す。
魔導師同士の交わりによって何が行われるのか、を。
でも、リシャール殿下って……。
見つめていると、リシャールは申し訳なさそうな顔をして重々しい口ぶりで答える。
「君の魔力を私が使うために必要なのです」
「殿下は魔導師の適性がないと聞いていますけど」
この国を守護する精霊王の末裔と言い伝えられている王家の人間は、代々魔導師としての素質を備えている。その力の現れ方は様々であり、その時代の要請に応じた力を持って生まれるとされる。
現在の治世は戦さのない平穏な世であるためか、国王は人心掌握の魔法に優れており、攻撃魔法は不得手だ。
そして、現在の王位継承権第一位であるリシャールは、魔導師の適性がない稀有な王子である。それをこの国の平穏の象徴として歓迎する者もいれば、魔法国家の危機として憂う者もいた。
リシャールは苦笑する。
「ええ、魔力を失ってしまいましたからね。ですが、魔力を供給されれば話は別です。君がメルから受け取った魔力を、私が受け取るつもりでこのような場を設けました」
魔導師ではない殿下が魔力を必要としている……それって……。
自分の受けた仕打ちよりも、何かのっぴきならない局面を迎えているらしいことを察し、アルフォンシーヌは思考を巡らす。
「事情は説明していただけないのですか?」
「少々込み入った事情でしてね」
末端の人間は黙って魔力供給源となっておけということか。
腑に落ちなくて腹立たしいが、次期国王に逆らえるほどの後ろ盾はない。王族の命令は絶対だ。
不満な気持ちが表情に出ていたのだろう。リシャールは言葉を続ける。
「でも、君が私の妻になる覚悟があるのでしたら、全て明かしてもいいですよ?」
今、なんて言った? 妻?
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