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微分と積分の世界観
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予備校の帰り道、偶然、僕は高校まで一緒だった友人に会った。
「あ、皆月」
「よう、元気にしてるか?」
皆月は僕と違って要領がいいからあっさりと進路を決めて大学に入学した。それに対して僕は現在予備校通い。皆月のへらへらとした様子が僕をいらだたせた。
「見てのとおり。生憎お前と違って、そんな余裕かましていられねーの」
「つれないなぁ。受験ブルー? かわいそうに」
からかうように皆月は言う。でもこれがヤツのいつものパターンだ。そう考えたら少しは気分が落ち着いた。
「で、そっちは大学、どう?相変わらず、世界征服してやるんだーなんてこと、言っているんじゃないだろうなぁ?」
この男が世界征服を目標に生きているのは、世界征服などという途方に暮れる目標の間には様々な選択肢があって、自分は最終的にその間の何者かになれればいいと言う思想によるからだと、僕は知っている。
でも、それを知らない人間からはただの危険人物に見えるに違いない。僕もその話を聞くまでは彼らと同じように考えていた。今もあんまり変わらないが。
「うーむ。なかなか同志が集まらなくてねぇ。が、世界征服は現在進行形だ」
「元気そうだな、お前……」
拳を握りしめて太陽をバックにした言い方は健在なようだ。僕はそのテンションに未だついていけない。否、ついていく必要もない。
「ほんと、暗いな。何、相談ならのるぜ」
「まーな。今日数学で試験あったんだよ。微分と積分。さっぱりでヘコんでんだ」
足下に転がっていた小石を蹴飛ばす。小石はころころと転がって、電柱にぶつかる。「あぁ。あれね。理系に進むなら避けては通れない壁だよな」
言って、小石が転がっていった方向に歩き出す。
「んで、諦めたわけ? 理系の道」
「んー、考えてるところ」
僕も彼と同じ方向に歩いていく。
「まぁ、お前は文系科目もできるから文転しても良いんじゃねぇ?」
やっぱそう言うか、お前は。
「でもまだ希望はあるぜ。考え方変えて見ようよ」
「へ?」
小石を拾って皆月は振り向く。僕は立ち止まる。
「大学で、面倒くさい微分と積分をやっているんだけどさ、面白いことを発見したわけよ。なんだと思う?」
にぃっと笑んで、面白可笑しげな様子で言う。
僕にはまったく分からない。昔からつかみ所のないヤツだ。こいつとは付き合いがなにげに長いといえど、未だに理解しがたい面を持つ。今のもそういう笑顔だ。
「微分ってさ、その関数のその時点における傾きだろう? 傾きって、その関数の次に来る値がどんな状態になるのかを予測しているんだ。つまり、微分って未来をあらわすわけよ。んで、積分ってのは原始関数を求める作業、つまり以前の状態の積み重ねとなるわけだ。これって過去を示しているように思えねぇ?」
なぜか筋が通っているような気もするけど……。
「たかが数学一つで、こういう哲学的なことを考えられるわけよ。なかなか面白いしょ?」
「前から思っていたけど、皆月、お前やっぱり変なヤツだ」
笑いをこらえるのがつらい。なんでそんなこと考えられるかなぁ。
「笑うなら笑えよ。一応これ、シリアスな話じゃなくて、笑い話なんだから」
「くっ、はははは。なんか気が晴れた。まだ僕は理系の道を捨てられそうにないや」
大きな声を出して笑う。たまにはいいだろう。うん、たまには。
「いっくらでも、こんなん考えられるぜ。お前の方が、こういうの得意だろ」
小石を軽く投げてはキャッチしながら皆月は言う。
「たっしかにそうだ。ありがと。もう少し頑張ってみるよ」
「そうこなくちゃ」
そして僕らは夕暮れの街をあとにした。
「あ、皆月」
「よう、元気にしてるか?」
皆月は僕と違って要領がいいからあっさりと進路を決めて大学に入学した。それに対して僕は現在予備校通い。皆月のへらへらとした様子が僕をいらだたせた。
「見てのとおり。生憎お前と違って、そんな余裕かましていられねーの」
「つれないなぁ。受験ブルー? かわいそうに」
からかうように皆月は言う。でもこれがヤツのいつものパターンだ。そう考えたら少しは気分が落ち着いた。
「で、そっちは大学、どう?相変わらず、世界征服してやるんだーなんてこと、言っているんじゃないだろうなぁ?」
この男が世界征服を目標に生きているのは、世界征服などという途方に暮れる目標の間には様々な選択肢があって、自分は最終的にその間の何者かになれればいいと言う思想によるからだと、僕は知っている。
でも、それを知らない人間からはただの危険人物に見えるに違いない。僕もその話を聞くまでは彼らと同じように考えていた。今もあんまり変わらないが。
「うーむ。なかなか同志が集まらなくてねぇ。が、世界征服は現在進行形だ」
「元気そうだな、お前……」
拳を握りしめて太陽をバックにした言い方は健在なようだ。僕はそのテンションに未だついていけない。否、ついていく必要もない。
「ほんと、暗いな。何、相談ならのるぜ」
「まーな。今日数学で試験あったんだよ。微分と積分。さっぱりでヘコんでんだ」
足下に転がっていた小石を蹴飛ばす。小石はころころと転がって、電柱にぶつかる。「あぁ。あれね。理系に進むなら避けては通れない壁だよな」
言って、小石が転がっていった方向に歩き出す。
「んで、諦めたわけ? 理系の道」
「んー、考えてるところ」
僕も彼と同じ方向に歩いていく。
「まぁ、お前は文系科目もできるから文転しても良いんじゃねぇ?」
やっぱそう言うか、お前は。
「でもまだ希望はあるぜ。考え方変えて見ようよ」
「へ?」
小石を拾って皆月は振り向く。僕は立ち止まる。
「大学で、面倒くさい微分と積分をやっているんだけどさ、面白いことを発見したわけよ。なんだと思う?」
にぃっと笑んで、面白可笑しげな様子で言う。
僕にはまったく分からない。昔からつかみ所のないヤツだ。こいつとは付き合いがなにげに長いといえど、未だに理解しがたい面を持つ。今のもそういう笑顔だ。
「微分ってさ、その関数のその時点における傾きだろう? 傾きって、その関数の次に来る値がどんな状態になるのかを予測しているんだ。つまり、微分って未来をあらわすわけよ。んで、積分ってのは原始関数を求める作業、つまり以前の状態の積み重ねとなるわけだ。これって過去を示しているように思えねぇ?」
なぜか筋が通っているような気もするけど……。
「たかが数学一つで、こういう哲学的なことを考えられるわけよ。なかなか面白いしょ?」
「前から思っていたけど、皆月、お前やっぱり変なヤツだ」
笑いをこらえるのがつらい。なんでそんなこと考えられるかなぁ。
「笑うなら笑えよ。一応これ、シリアスな話じゃなくて、笑い話なんだから」
「くっ、はははは。なんか気が晴れた。まだ僕は理系の道を捨てられそうにないや」
大きな声を出して笑う。たまにはいいだろう。うん、たまには。
「いっくらでも、こんなん考えられるぜ。お前の方が、こういうの得意だろ」
小石を軽く投げてはキャッチしながら皆月は言う。
「たっしかにそうだ。ありがと。もう少し頑張ってみるよ」
「そうこなくちゃ」
そして僕らは夕暮れの街をあとにした。
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