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腹癒せにドラゴン退治に行ってきます!

食べたいのは私であって、食べられたいわけではない 3

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「ところで、私の血がどうのとか、何者なのか思い出すべきだ、とか言われた気がするけど、あれは何? 私の覚え間違い?」

 傷の治療のことを思い出し、私は記憶に引っかかっていた謎の言葉について尋ねる。瀕死からの覚醒だったので、夢だったのかもしれないが、一応聞いておかねば。

「まだ思い出せないのか?」

 かまどから薄い生地のパンが出てきた。王都で暮らしていた時にはフランスパンみたいな形状のものばかり食べていたので珍しい。十数枚ある私の手のひらサイズのそれは木製の皿の上に並べられる。

「そう聞いてくるってことは、聞き間違いじゃなかったってことね。私、なんのことだかさっぱりわからないんだけど」
「おかしいな……覚醒を拒絶しているのかもしれない。魔法も封じたから、自然と思い出すんじゃないかと考えたんだが」

 これで食事の準備は整ったらしい。マッチョさんは私の正面に座る。なお、このテーブルには椅子が一脚しかなかったので、書斎から運び出した椅子が彼の席だ。

「だからって、またキスしようとか考えないでよね?」
「なし崩しで抱けるかと期待したんだが、残念だ。貴女の肌は触り心地がいい」
「……しょ、正直すぎるのも、困ったものね」

 いかん。マッチョさんの顔を見られないぞ。
 慌てて視線をテーブルに並ぶ料理に向ける。早くも自分で話題を振ってしまったことを後悔していた。

「求婚を受け入れてくれたら、たっぷりと愛せるのに――程度のことは料理中もずっと考えていたさ。……ああ、いや、抱きたいから求婚したわけじゃない。伴侶は貴女しかいないと直感したから、求婚したんだ。そこは信じてほしい」
「一人きりでドラゴン退治に来ちゃう女に一目惚れしたってこと?」

 私がヒーローだったら、絶対にそんな女は選ばないけどね! ってか、前世の記憶がもっと早く戻っていたら、殴り込みに行くんじゃなくて、交渉くらい考えたと思うけどね! いくら自分が強いからって、自惚れすぎだから! 超無謀だってわかるから!

 心の中で私が私の行動に呆れていると、マッチョさんがクスッと笑った。

「俺としても困惑しているが、そうなんだろうな」

 すごく穏やかな顔をしている。素だと怖い印象の顔立ちなのに、こういう優しそうな表情もできるんだ。

 まずい。不覚にもときめいてしまった……

 好奇心に負けて盗み見るんじゃなかった。
 彼の言う「私の正体」を知るために、キスくらいならしてもいいかな、なんて、うっかりチョロい女の思考になりかけたぞ。どう考えても、ヤルことヤルための方便だろうに。

「……この話は終わりにして、食べましょう」
「ああ、そうだな。口に合うといいが」

 空腹で、思考がおかしくなっているんだわ。ナシナシ。しっかり食べて、考え直そう。

 私たちは遅い朝食を開始したのだった。
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