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ミストレスとは呼ばせない

不穏な影

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***

 プリムとリーフが出て行った後の工房。そこには小さな影があった。

(厄介なことになったわね……)

 全身を黒い外套に包んだ女性が雨に打たれたまま憎憎しげにプリムたちが去っていった方向をにらんでいる。

(まさかここでプリムが来るとは予想してなかったわ。あとちょっとのところだったのに!)

 悔しげに奥歯をぎりぎりと鳴らす。しかしいつまでもこうしている場合ではない。早くせねばプリムたちが屋敷に着いてしまうだろう。それまでには屋敷に戻り、いつものように対応せねばならない。

(もっと賢い方法で証拠隠滅をはかりたかったけど仕方がないわ)

 持ってきた白墨で工房の壁に魔法陣を描きつける。火を焚くよりも彼女にはこの方法が一番手頃だった。

(さぁ、全部燃やしてしまいなさい)

 彼女が離れると魔法陣が作動。円形に描かれた線の中に複雑な幾何学模様の入ったその魔法陣から炎が噴き出す。魔法によって作られた炎は工房を包み始めた。大粒の雨にも魔法の炎は負けず、強風に煽られてめらめらとその勢いを増してゆく。

(――急がなくちゃ)

 炎が工房全体に回ったのを確認すると、彼女は前もって準備していた飛行用魔導人形に乗り込み、その場から立ち去った。
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