235 / 309
White Day's Rhapsody
★10★ 3月14日金曜日、22時前
しおりを挟む
夕食を終えて、紅が入浴に出掛けている間、部屋には抜折羅と遊輝が残っていた。
海を見下ろせる最上階の和室。部屋に付属する風呂に入って浴衣に着替え、窓際の掘り炬燵で寛ぐ遊輝は真っ暗になった外を眺めている。長い銀髪は下ろしたまま束ねていない。そんな姿は絵になるような気がする。
風呂上がりの抜折羅は、紅が戻ってきていないのを確認した上で問うことにした。気になっていたことがあるのだ。
「――白浪先輩は、部屋のこと聞いていたんですか?」
問い掛けると、遊輝は抜折羅にゆっくりと顔を向けて微笑んだ。
「ん? 陽太くんからは、ホテルは楽しみにしていいとだけ言われたよ。彼の趣味は面白いね」
「迷惑なだけですよ。アメリカにいた間はずっと標的にされていたんですから、いい加減にして欲しいくらいだ」
うんざりしているのだ。陽太の玩具にされたくないのに、どう気を付けていてもはめられてしまう。理不尽だ。
むすっとして不機嫌な抜折羅に、遊輝は明るく笑う。
「抜折羅くんはからかいがいがあるからね。天然なところもあるから、予想を良い感じに外すし。ちょっかいを出したくなる気持ちはよくわかるよ」
「白浪先輩も同系統の性格でしたね」
からかってくるのは陽太だけではない。目の前にいる遊輝もその傾向は備えている。
「キャラが被っているみたいな言い方は心外だなぁ」
微苦笑を浮かべる。彼は表情がころころ変わるな、と抜折羅は毎度ながら思う。
「厄介さが同程度ってことですよ」
「厄介かい? 僕は陽太くんと比べたら、だいぶ君を贔屓していると思うんだけどな」
「贔屓、ですか?」
奇妙な単語を使ってくるな、と感じての問い。
遊輝は不思議そうな顔をする。
「だって、協力的でしょ? 僕は君とも紅ちゃんとも敵対関係になった記憶はないよ」
「いや、紅を攫ったことがあるくせによくそんな台詞が出ますね」
危うく鵜呑みにするところだった。抜折羅は思い出してすかさず指摘する。
「えー? おかしいなぁ、合意の上だったはずなのに。それに、あのときは君からの一方的な宣戦布告であって、僕は君を敵だとは思っていなかったよ」
「紅を好いているのに、俺を邪魔だとは思わないんですか?」
紅に想いを寄せる蒼衣からの敵意は感じるが、同じ状況のはずの遊輝からはそういった気持ちを感じたことはない。
「僕は君のことも好きだからね」
「な……」
思わず絶句する。ラヴの意味ではなくライクの意味に違いないのだが、好かれているとは思わなかったのだ。
「ふふっ、愉快な反応だね。君の顔が赤く見えるのは湯上がりだからかな?」
「阿呆抜かせっ!!」
「期待されているところ申し訳ないけど、僕は女の子の方がずっと好きだから安心していいよ?」
言って、妖艶に微笑む。中性的な整った顔立ちでそんな仕草をされると、彼なのか彼女なのか曖昧になる。
「ただ、まぁ、思うとすれば、君と紅ちゃんと僕で、みたいな妄想くらいはしたかな。うまくいくような気がするんだよねぇ」
「……一体何の話をしている?」
遊輝が何を考えているのか、抜折羅にはさっぱりわからない。
「だからさ、二人で紅ちゃんを襲お――」
「ただいまー」
ドアが開く音とともに聞こえてきたのは紅の声。遊輝は台詞をみなまで言わず、口を閉じた。
海を見下ろせる最上階の和室。部屋に付属する風呂に入って浴衣に着替え、窓際の掘り炬燵で寛ぐ遊輝は真っ暗になった外を眺めている。長い銀髪は下ろしたまま束ねていない。そんな姿は絵になるような気がする。
風呂上がりの抜折羅は、紅が戻ってきていないのを確認した上で問うことにした。気になっていたことがあるのだ。
「――白浪先輩は、部屋のこと聞いていたんですか?」
問い掛けると、遊輝は抜折羅にゆっくりと顔を向けて微笑んだ。
「ん? 陽太くんからは、ホテルは楽しみにしていいとだけ言われたよ。彼の趣味は面白いね」
「迷惑なだけですよ。アメリカにいた間はずっと標的にされていたんですから、いい加減にして欲しいくらいだ」
うんざりしているのだ。陽太の玩具にされたくないのに、どう気を付けていてもはめられてしまう。理不尽だ。
むすっとして不機嫌な抜折羅に、遊輝は明るく笑う。
「抜折羅くんはからかいがいがあるからね。天然なところもあるから、予想を良い感じに外すし。ちょっかいを出したくなる気持ちはよくわかるよ」
「白浪先輩も同系統の性格でしたね」
からかってくるのは陽太だけではない。目の前にいる遊輝もその傾向は備えている。
「キャラが被っているみたいな言い方は心外だなぁ」
微苦笑を浮かべる。彼は表情がころころ変わるな、と抜折羅は毎度ながら思う。
「厄介さが同程度ってことですよ」
「厄介かい? 僕は陽太くんと比べたら、だいぶ君を贔屓していると思うんだけどな」
「贔屓、ですか?」
奇妙な単語を使ってくるな、と感じての問い。
遊輝は不思議そうな顔をする。
「だって、協力的でしょ? 僕は君とも紅ちゃんとも敵対関係になった記憶はないよ」
「いや、紅を攫ったことがあるくせによくそんな台詞が出ますね」
危うく鵜呑みにするところだった。抜折羅は思い出してすかさず指摘する。
「えー? おかしいなぁ、合意の上だったはずなのに。それに、あのときは君からの一方的な宣戦布告であって、僕は君を敵だとは思っていなかったよ」
「紅を好いているのに、俺を邪魔だとは思わないんですか?」
紅に想いを寄せる蒼衣からの敵意は感じるが、同じ状況のはずの遊輝からはそういった気持ちを感じたことはない。
「僕は君のことも好きだからね」
「な……」
思わず絶句する。ラヴの意味ではなくライクの意味に違いないのだが、好かれているとは思わなかったのだ。
「ふふっ、愉快な反応だね。君の顔が赤く見えるのは湯上がりだからかな?」
「阿呆抜かせっ!!」
「期待されているところ申し訳ないけど、僕は女の子の方がずっと好きだから安心していいよ?」
言って、妖艶に微笑む。中性的な整った顔立ちでそんな仕草をされると、彼なのか彼女なのか曖昧になる。
「ただ、まぁ、思うとすれば、君と紅ちゃんと僕で、みたいな妄想くらいはしたかな。うまくいくような気がするんだよねぇ」
「……一体何の話をしている?」
遊輝が何を考えているのか、抜折羅にはさっぱりわからない。
「だからさ、二人で紅ちゃんを襲お――」
「ただいまー」
ドアが開く音とともに聞こえてきたのは紅の声。遊輝は台詞をみなまで言わず、口を閉じた。
0
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
下品な男に下品に調教される清楚だった図書委員の話
神谷 愛
恋愛
クラスで目立つこともない彼女。半ば押し付けれられる形でなった図書委員の仕事のなかで出会った体育教師に堕とされる話。
つまらない学校、つまらない日常の中の唯一のスパイスである体育教師に身も心も墜ちていくハートフルストーリー。ある時は図書室で、ある時は職員室で、様々な場所で繰り広げられる終わりのない蜜月の軌跡。
歪んだ愛と実らぬ恋の衝突
ノクターンノベルズにもある
☆とブックマークをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる