204 / 309
【番外編】不機嫌なブルーサファイア(R-18)
*9*
しおりを挟む
「兄様……?」
様子に変化があった。蒼衣は紅の顔を覗きながら続ける。
「貴女が穢れを知らない無垢な身体であることは理解できました。――少々躾が過ぎたようですね。私は貴女が誰かに純潔を捧げたのではないかと疑っていたのですが……」
紅は小さく頭を振る。
「非道いです、兄様。あたし、まだ抜折羅にも触れさせてなかったのに……」
ハプニングで軽く触れられたことはあるが、それらを除けば抜折羅に直接肌を触られたことはない。だからこんなことになってしまって悲しかった。
「そのようですね」
申し訳なさそうに告げて視線を外すと、彼はようやく紅から離れる。すぐには手が届かない位置に移動して、蒼衣は紅を見た。
「貴女を泣かせてしまったことの詫びとして、もう一度貴女に誓います。無理に貴女に触れようとはしない、と。誓いを破った場合は婚約を破棄できるように手配しましょう」
――婚約の破棄……?
婚約者という立場を有利に使ってきた蒼衣からの意外な提案に、紅は素直に驚いた。そこは絶対に譲らないところだと思っていたのに。
蒼衣は必死な形相で続ける。
「――ですから、紅。私を避けないでください。貴女に会えなくなかったら、全財産を使ってでも見つけ出して、貴女を縛り付けたくなる。貴女を壊してでも、近くに置いておきたくなるのです。その衝動を抑えられる自信はありません。協力していただけませんか?」
「…………」
すぐに返事ができなかった。ここで拒否をしたら、彼は無理やり奪うことを選択するだろう。壊してでも、自分のものにしたいとどこかで願っているのだから。ただ、ここで頷いても、ことが起こるのが先延ばしになってしまうだけで何の解決にもならない気がする。
――ねぇ、兄様。あたしたちは仲の良い兄妹のような幼なじみには戻れないのですか?
あまり人を頼ることを好まない紅にとって、蒼衣は唯一頼ることを躊躇わない相手だった。どんなことでも耳を傾けてくれたし、いつだって手を貸してくれた。ずっと慕っていたのだ。兄のような存在として、実の兄以上に頼りにしていたのに。
――あの頃の関係のままではいけなかったの?
蒼衣の気持ちに気付けなかった。彼も自分を妹のように思い、可愛がってくれているのだと信じ込んでいたのだから。その関係の心地よさに溺れて、無意識に見て見ぬ振りを続けてきてしまったに違いない。いつから彼が紅を娶りたいと考えていたのか、知らずにここまで来てしまったことが悔やまれる。
「紅?」
返事を促される。黙ったままうやむやにしてしまうのが一番選んではならないものだとはわかっている。今、意志を貫かなければ、もう選択する機会は得られない。
紅は毛布で胸元を隠しながら上体を起こすと、蒼衣をじっと見つめた。
「……蒼衣兄様が、今まで通りの優しいお兄様でいてくださるなら、あたしはあなたから逃げたりしません。ですから、無理強いはしないと、約束を違えたときには婚約を破棄すると、心から誓っていただけますか?」
「はい。誓います、紅」
安心したように蒼衣は笑む。紅が知っている穏やかな彼だ。
「なら、あたしはできるだけ今まで通りに振る舞います。……しばらくは今日のことを引きずってぎこちなくなるでしょうけど、そのくらいは了承いただけますよね?」
あれだけのことをされたのだ。なかったことになどできるわけがない。かなりショックだった。今、冷静を装って喋れることが不思議でたまらないくらいには。
「えぇ……それは避けられないことでしょうから」
一応は反省してくれているようだ。申し訳ない気持ちが台詞や態度から透けて見える。
「その返事が聞けて安心しました」
もう襲ってくることはないだろう。その意志を示すために、彼は距離を取ってくれた。もう一度、彼を信じたい。
――ただ、あたしがここで彼を怒らせなければ、でしょうけど……。
様子に変化があった。蒼衣は紅の顔を覗きながら続ける。
「貴女が穢れを知らない無垢な身体であることは理解できました。――少々躾が過ぎたようですね。私は貴女が誰かに純潔を捧げたのではないかと疑っていたのですが……」
紅は小さく頭を振る。
「非道いです、兄様。あたし、まだ抜折羅にも触れさせてなかったのに……」
ハプニングで軽く触れられたことはあるが、それらを除けば抜折羅に直接肌を触られたことはない。だからこんなことになってしまって悲しかった。
「そのようですね」
申し訳なさそうに告げて視線を外すと、彼はようやく紅から離れる。すぐには手が届かない位置に移動して、蒼衣は紅を見た。
「貴女を泣かせてしまったことの詫びとして、もう一度貴女に誓います。無理に貴女に触れようとはしない、と。誓いを破った場合は婚約を破棄できるように手配しましょう」
――婚約の破棄……?
婚約者という立場を有利に使ってきた蒼衣からの意外な提案に、紅は素直に驚いた。そこは絶対に譲らないところだと思っていたのに。
蒼衣は必死な形相で続ける。
「――ですから、紅。私を避けないでください。貴女に会えなくなかったら、全財産を使ってでも見つけ出して、貴女を縛り付けたくなる。貴女を壊してでも、近くに置いておきたくなるのです。その衝動を抑えられる自信はありません。協力していただけませんか?」
「…………」
すぐに返事ができなかった。ここで拒否をしたら、彼は無理やり奪うことを選択するだろう。壊してでも、自分のものにしたいとどこかで願っているのだから。ただ、ここで頷いても、ことが起こるのが先延ばしになってしまうだけで何の解決にもならない気がする。
――ねぇ、兄様。あたしたちは仲の良い兄妹のような幼なじみには戻れないのですか?
あまり人を頼ることを好まない紅にとって、蒼衣は唯一頼ることを躊躇わない相手だった。どんなことでも耳を傾けてくれたし、いつだって手を貸してくれた。ずっと慕っていたのだ。兄のような存在として、実の兄以上に頼りにしていたのに。
――あの頃の関係のままではいけなかったの?
蒼衣の気持ちに気付けなかった。彼も自分を妹のように思い、可愛がってくれているのだと信じ込んでいたのだから。その関係の心地よさに溺れて、無意識に見て見ぬ振りを続けてきてしまったに違いない。いつから彼が紅を娶りたいと考えていたのか、知らずにここまで来てしまったことが悔やまれる。
「紅?」
返事を促される。黙ったままうやむやにしてしまうのが一番選んではならないものだとはわかっている。今、意志を貫かなければ、もう選択する機会は得られない。
紅は毛布で胸元を隠しながら上体を起こすと、蒼衣をじっと見つめた。
「……蒼衣兄様が、今まで通りの優しいお兄様でいてくださるなら、あたしはあなたから逃げたりしません。ですから、無理強いはしないと、約束を違えたときには婚約を破棄すると、心から誓っていただけますか?」
「はい。誓います、紅」
安心したように蒼衣は笑む。紅が知っている穏やかな彼だ。
「なら、あたしはできるだけ今まで通りに振る舞います。……しばらくは今日のことを引きずってぎこちなくなるでしょうけど、そのくらいは了承いただけますよね?」
あれだけのことをされたのだ。なかったことになどできるわけがない。かなりショックだった。今、冷静を装って喋れることが不思議でたまらないくらいには。
「えぇ……それは避けられないことでしょうから」
一応は反省してくれているようだ。申し訳ない気持ちが台詞や態度から透けて見える。
「その返事が聞けて安心しました」
もう襲ってくることはないだろう。その意志を示すために、彼は距離を取ってくれた。もう一度、彼を信じたい。
――ただ、あたしがここで彼を怒らせなければ、でしょうけど……。
0
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
下品な男に下品に調教される清楚だった図書委員の話
神谷 愛
恋愛
クラスで目立つこともない彼女。半ば押し付けれられる形でなった図書委員の仕事のなかで出会った体育教師に堕とされる話。
つまらない学校、つまらない日常の中の唯一のスパイスである体育教師に身も心も墜ちていくハートフルストーリー。ある時は図書室で、ある時は職員室で、様々な場所で繰り広げられる終わりのない蜜月の軌跡。
歪んだ愛と実らぬ恋の衝突
ノクターンノベルズにもある
☆とブックマークをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる