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【番外編】キューピットストーンの粋な計らい
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「……何かあったんですか?」
恐る恐るといった様子で紅が問う。遊輝が電話をしている間に気を取り直せたらしかった。
「なんかね……僕、次の春にはお兄ちゃんになるらしい」
どんな反応をしたら良いのか迷っているような感じで、遊輝が答える。
「おめでとうございます」
紅は爽やかに微笑む。祝福の気持ちがこもっているようにも見えた。
「ありがとう。――ただ、誕生日プレゼントよろしく、産まれたらあげるから日本に連れ帰ってねって言われた……」
うーんと、遊輝は自身の頭を両手で抱えて唸る。どうかわそうか真剣に思案している様が窺える。
「それはお気の毒に」
紅、苦笑。抜折羅も思わず苦笑いを浮かべる。
「あぁっ、もうっ!! なんで自分の子どもじゃないのに世話しなきゃいけないわけ!? 向こうならベビーシッターくらいいるでしょ? 雇えるだけのお金もあるくせに、何言っちゃってるのっ!? 僕をなんだと思っているわけっ!?」
叫ぶだけ叫んで肩で息をすると、遊輝は紅の前に移動して両肩に手を置いた。
「……はい?」
きょとんとする紅。
「――そういうわけだから、紅ちゃん、今すぐ子づくりしようっ!」
「はぁっ!?」
「その口は何をぬかしてるっ!?」
すぱこんっと、履いていたスリッパを手に取ると遊輝の後頭部を叩く。景気の良い音がリビングダイニングに響いた。
「非道いよ、抜折羅くん。スリッパで叩くなんて。しかも、加減しなかったよね?」
打たれた場所をさすりながら、遊輝が涙目で訴えてくる。
「叩かれるような言動をするヤツの方が悪い」
きっぱりと言ってやる。目の前で紅に迫るとはいい度胸だ。
「まだ手を出してないよ?」
「出してからじゃ手遅れだろうが」
「まぁ、そうだね」
あっさりと認めると、遊輝は肩を竦める。
「あーあ。弟妹を育てるくらいなら、好きな女の子との間に子どもを作って育てたいなって思っただけなのに。僕としたことが未遂にすらたどり着けないなんて。残念」
「勝手に残念がってろよ」
二発目が必要だろうかと、スリッパを履き直しながら思う。
「抜折羅くん、冷たいー。今日が僕の誕生日だってこと、覚えていてくれてるかい?」
「誕生日だからって、何でも許されるわけじゃないだろ」
「うん。正論をありがとう」
残念そうな表情で告げると、抜折羅の後ろに隠した紅に視線が向けられる。
「紅ちゃんをその気にさせられたら僕の勝ちだと思うんだけどね。今日はそれなりに楽しめたからおとなしくひいてあげる」
紅は何も言わなかった。抜折羅のシャツをぐっと握るのが、背中に伝わってくる。
――撤退の頃合いだな。
「紅、そろそろ帰るぞ。車も来る頃だし」
背後にいる紅に声を掛ける。シャツから手が離れたのがわかった。
「あ、じゃあ、着替えないと」
「良いじゃないか、そのままでも」
「でも、この格好で帰ったら、おかしくない?」
不安そうな、少し恥じらいを感じる声。
「そうか? あ。そのままだと、外は寒いか」
部屋の中は暖かいから良いが、ブラウスだけでは寒そうだ。
「そういうことなら、その洋服に合うボレロを出してあげるよ。この家に使う人いないし、プレゼントしてあげる」
遊輝が割り込んで提案してきた。紅は渋る。
「でも……」
「タンスの肥やしにしておくか、あるいは捨てちゃうものなんだから、遠慮しないで受け取って。ね?」
申し入れに迷う素振りを見せていた紅だったが、やがて頷いた。
「では、お言葉に甘えて」
恐る恐るといった様子で紅が問う。遊輝が電話をしている間に気を取り直せたらしかった。
「なんかね……僕、次の春にはお兄ちゃんになるらしい」
どんな反応をしたら良いのか迷っているような感じで、遊輝が答える。
「おめでとうございます」
紅は爽やかに微笑む。祝福の気持ちがこもっているようにも見えた。
「ありがとう。――ただ、誕生日プレゼントよろしく、産まれたらあげるから日本に連れ帰ってねって言われた……」
うーんと、遊輝は自身の頭を両手で抱えて唸る。どうかわそうか真剣に思案している様が窺える。
「それはお気の毒に」
紅、苦笑。抜折羅も思わず苦笑いを浮かべる。
「あぁっ、もうっ!! なんで自分の子どもじゃないのに世話しなきゃいけないわけ!? 向こうならベビーシッターくらいいるでしょ? 雇えるだけのお金もあるくせに、何言っちゃってるのっ!? 僕をなんだと思っているわけっ!?」
叫ぶだけ叫んで肩で息をすると、遊輝は紅の前に移動して両肩に手を置いた。
「……はい?」
きょとんとする紅。
「――そういうわけだから、紅ちゃん、今すぐ子づくりしようっ!」
「はぁっ!?」
「その口は何をぬかしてるっ!?」
すぱこんっと、履いていたスリッパを手に取ると遊輝の後頭部を叩く。景気の良い音がリビングダイニングに響いた。
「非道いよ、抜折羅くん。スリッパで叩くなんて。しかも、加減しなかったよね?」
打たれた場所をさすりながら、遊輝が涙目で訴えてくる。
「叩かれるような言動をするヤツの方が悪い」
きっぱりと言ってやる。目の前で紅に迫るとはいい度胸だ。
「まだ手を出してないよ?」
「出してからじゃ手遅れだろうが」
「まぁ、そうだね」
あっさりと認めると、遊輝は肩を竦める。
「あーあ。弟妹を育てるくらいなら、好きな女の子との間に子どもを作って育てたいなって思っただけなのに。僕としたことが未遂にすらたどり着けないなんて。残念」
「勝手に残念がってろよ」
二発目が必要だろうかと、スリッパを履き直しながら思う。
「抜折羅くん、冷たいー。今日が僕の誕生日だってこと、覚えていてくれてるかい?」
「誕生日だからって、何でも許されるわけじゃないだろ」
「うん。正論をありがとう」
残念そうな表情で告げると、抜折羅の後ろに隠した紅に視線が向けられる。
「紅ちゃんをその気にさせられたら僕の勝ちだと思うんだけどね。今日はそれなりに楽しめたからおとなしくひいてあげる」
紅は何も言わなかった。抜折羅のシャツをぐっと握るのが、背中に伝わってくる。
――撤退の頃合いだな。
「紅、そろそろ帰るぞ。車も来る頃だし」
背後にいる紅に声を掛ける。シャツから手が離れたのがわかった。
「あ、じゃあ、着替えないと」
「良いじゃないか、そのままでも」
「でも、この格好で帰ったら、おかしくない?」
不安そうな、少し恥じらいを感じる声。
「そうか? あ。そのままだと、外は寒いか」
部屋の中は暖かいから良いが、ブラウスだけでは寒そうだ。
「そういうことなら、その洋服に合うボレロを出してあげるよ。この家に使う人いないし、プレゼントしてあげる」
遊輝が割り込んで提案してきた。紅は渋る。
「でも……」
「タンスの肥やしにしておくか、あるいは捨てちゃうものなんだから、遠慮しないで受け取って。ね?」
申し入れに迷う素振りを見せていた紅だったが、やがて頷いた。
「では、お言葉に甘えて」
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