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黒き石に降り積もる雪
*6* 2007年8月某日、夕方【♭】
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専用の入り口があるらしい。勝手口に近い鉄扉は開いているようで、そこを通って廃屋の中に入った。
充ちているのは埃っぽい空気とカビ臭さ。少年は懐中電灯で室内を照らすと、土足のまま連れて行かれる。時折、ガラスが割れる音が足下でするのは、割れたガラスビンが散らばっているかららしかった。
踊場のない真っ直ぐな階段を上る。木の板が軋む音はお化け屋敷の名に相応しい。
やがてたどり着いた廊下。その突き当たりにある部屋から光が漏れていた。そこを目指して進んできたようで、懐中電灯を消すと灯りがついている部屋のドアを開けた。
「外に昼間のガキがいたんで連れてきたけど、将人、お前の知り合いか? 誰も連れてくるなって言っておいたはずなんだけど?」
八畳はありそうな広い真四角の部屋だ。その部屋の四隅にキャンプで使用するようなランタンが置かれて灯っている。古くボロボロになった絨毯が敷かれた洋室で、今は家具の一切はない。しかし日焼けをした壁紙がかつての部屋の様子を浮かび上がらせる。窓はきっちりと雨戸が閉められていて外の様子はわからない。
そんな部屋の中央に、後ろ手に縛られた将人が転がっていた。周りを三人の柄の悪そうな少年が囲っている。
殴られたり蹴られたりしたのだろう。顔を腫らした将人を見て、紅は彼の名を叫びそうになった。しかし将人が紅をちらりと見るなり興味のなさそうな顔をしたのでぐっと堪える。彼の意図を察したからだ。
将人は紅と一緒に戻ってきた少年の問いに答えた。
「知らねえよ、そんなガキ」
――わざとだ。
紅には将人がどうしてそんなことを告げたのか理解できた。知らない人間であるのを装っている。無関係だと主張して、巻き込むのを防ごうというのだ。
「じゃあ、俺がこの子に何をしようと、お前にゃ関係ないな」
告げるなり、少年は掴んでいた紅の腕を解放する。そして足払いをした。
小さくて軽い紅の身体は足払いをされてバランスを崩し、側面を下に倒れる。そこを容赦なく蹴り飛ばされた。
「ぐっ!?」
つま先が鳩尾に入っていた。急所を的確に狙ってきたらしく、少年の薄暗い感情が滲む顔が転がる紅を見下ろす。
「真雪っ……!? 小学生の女の子相手にっ」
狼狽えた声を出したのは将人だ。上体を起こし、紅の近くにいる少年――真雪を睨む。
「こういう躾は最初が肝心っしょ? イイコトをしたとか調子こいているガキには、ただの阿呆ガキだったってことを理解させなきゃな」
言って、苦しそうに呼吸をしている紅を仰向けにし、馬乗りになる。真雪の手が紅のキャミソールを掴んだ。
「待てよっ。何をする気だっ!?」
将人が叫んで動く。だが、周りに立つ少年の一人に蹴り飛ばされて呻いた。
「傷が残るようにいたぶるには、肌を直接見ながらがラクじゃん?」
キャミソールが捲られて、抵抗するも虚しく脱がされる。
「ひぅっ」
紅は咄嗟に自分の薄い胸を隠す。怖くて恐くて仕方がない。涙ぐんだ目は視界を歪ませて像をまともに結ばない。
「もうちょい発育が良けりゃ、犯してみるのも面白そうだったんだけどな」
胸を覆っていた右腕を掴まれて、床に固定される。体重を掛けられて押さえつけられた手首が軋む。
「痛いっ!!」
「もっと泣いて喚けよ。楽しもうぜ」
腹を殴られた。空気が一気に吐き出されて、しかし痛みでうまく吸えない。苦しさに紅は喘ぐ。
「お前のせいで補導され掛けたからな。借りくらい返してもかまわんよな?」
二発目も腹部を狙われた。
「がはっ!?」
胃液が逆流してくる。紅は横を向くと吐き出した。
「うっわ、きたねぇな」
紅が吐いたのを見て、真雪は上から退く。そのあとで紅の脇腹を強く蹴った。
「やめろっ!! それ以上、紅に手を出すなっ!!」
将人は勢いよく立ち上がる。周りの少年たちは将人を押さえるべく動き出すが、一人を頭突きで黙らせ、もう一人は足払いで転倒させ、焦った最後の一人は体当たりで伸した。一瞬の出来事だ。
「なんだ。やっぱり知ってるガキじゃん」
真雪は将人と対峙する。その一方で紅をつま先で執拗に小突いた。
「可哀想になぁ、知り合いなのに無視されちゃって。ねぇ、紅ちゃん」
「気安く紅の名を呼ぶなっ!!」
跳躍。そこから回転を混ぜた蹴り。
将人の攻撃は当たらず、真雪は軽く後方に飛んでかわした。
「紅。お前、どうしてンなところにいんだよ」
目的は攻撃ではなく、紅から真雪を引き離すこと。将人は紅に背を向けてしゃがむと、腕を動かす。
「だって、将人をほうっておけないよ」
答えながら、紅は目の前に出された将人の腕を縛っているビニール紐を解くために手を動かす。固く結ばれた紐は簡単には解けない。
――切れれば早いんだけど……。
焦っているからか、うまくできなくて手間取ってしまう。
「……おれに関わるからこういうことになるんだぞっ。忠告しただろうが」
「――何しているのかな?」
気付かれた。
充ちているのは埃っぽい空気とカビ臭さ。少年は懐中電灯で室内を照らすと、土足のまま連れて行かれる。時折、ガラスが割れる音が足下でするのは、割れたガラスビンが散らばっているかららしかった。
踊場のない真っ直ぐな階段を上る。木の板が軋む音はお化け屋敷の名に相応しい。
やがてたどり着いた廊下。その突き当たりにある部屋から光が漏れていた。そこを目指して進んできたようで、懐中電灯を消すと灯りがついている部屋のドアを開けた。
「外に昼間のガキがいたんで連れてきたけど、将人、お前の知り合いか? 誰も連れてくるなって言っておいたはずなんだけど?」
八畳はありそうな広い真四角の部屋だ。その部屋の四隅にキャンプで使用するようなランタンが置かれて灯っている。古くボロボロになった絨毯が敷かれた洋室で、今は家具の一切はない。しかし日焼けをした壁紙がかつての部屋の様子を浮かび上がらせる。窓はきっちりと雨戸が閉められていて外の様子はわからない。
そんな部屋の中央に、後ろ手に縛られた将人が転がっていた。周りを三人の柄の悪そうな少年が囲っている。
殴られたり蹴られたりしたのだろう。顔を腫らした将人を見て、紅は彼の名を叫びそうになった。しかし将人が紅をちらりと見るなり興味のなさそうな顔をしたのでぐっと堪える。彼の意図を察したからだ。
将人は紅と一緒に戻ってきた少年の問いに答えた。
「知らねえよ、そんなガキ」
――わざとだ。
紅には将人がどうしてそんなことを告げたのか理解できた。知らない人間であるのを装っている。無関係だと主張して、巻き込むのを防ごうというのだ。
「じゃあ、俺がこの子に何をしようと、お前にゃ関係ないな」
告げるなり、少年は掴んでいた紅の腕を解放する。そして足払いをした。
小さくて軽い紅の身体は足払いをされてバランスを崩し、側面を下に倒れる。そこを容赦なく蹴り飛ばされた。
「ぐっ!?」
つま先が鳩尾に入っていた。急所を的確に狙ってきたらしく、少年の薄暗い感情が滲む顔が転がる紅を見下ろす。
「真雪っ……!? 小学生の女の子相手にっ」
狼狽えた声を出したのは将人だ。上体を起こし、紅の近くにいる少年――真雪を睨む。
「こういう躾は最初が肝心っしょ? イイコトをしたとか調子こいているガキには、ただの阿呆ガキだったってことを理解させなきゃな」
言って、苦しそうに呼吸をしている紅を仰向けにし、馬乗りになる。真雪の手が紅のキャミソールを掴んだ。
「待てよっ。何をする気だっ!?」
将人が叫んで動く。だが、周りに立つ少年の一人に蹴り飛ばされて呻いた。
「傷が残るようにいたぶるには、肌を直接見ながらがラクじゃん?」
キャミソールが捲られて、抵抗するも虚しく脱がされる。
「ひぅっ」
紅は咄嗟に自分の薄い胸を隠す。怖くて恐くて仕方がない。涙ぐんだ目は視界を歪ませて像をまともに結ばない。
「もうちょい発育が良けりゃ、犯してみるのも面白そうだったんだけどな」
胸を覆っていた右腕を掴まれて、床に固定される。体重を掛けられて押さえつけられた手首が軋む。
「痛いっ!!」
「もっと泣いて喚けよ。楽しもうぜ」
腹を殴られた。空気が一気に吐き出されて、しかし痛みでうまく吸えない。苦しさに紅は喘ぐ。
「お前のせいで補導され掛けたからな。借りくらい返してもかまわんよな?」
二発目も腹部を狙われた。
「がはっ!?」
胃液が逆流してくる。紅は横を向くと吐き出した。
「うっわ、きたねぇな」
紅が吐いたのを見て、真雪は上から退く。そのあとで紅の脇腹を強く蹴った。
「やめろっ!! それ以上、紅に手を出すなっ!!」
将人は勢いよく立ち上がる。周りの少年たちは将人を押さえるべく動き出すが、一人を頭突きで黙らせ、もう一人は足払いで転倒させ、焦った最後の一人は体当たりで伸した。一瞬の出来事だ。
「なんだ。やっぱり知ってるガキじゃん」
真雪は将人と対峙する。その一方で紅をつま先で執拗に小突いた。
「可哀想になぁ、知り合いなのに無視されちゃって。ねぇ、紅ちゃん」
「気安く紅の名を呼ぶなっ!!」
跳躍。そこから回転を混ぜた蹴り。
将人の攻撃は当たらず、真雪は軽く後方に飛んでかわした。
「紅。お前、どうしてンなところにいんだよ」
目的は攻撃ではなく、紅から真雪を引き離すこと。将人は紅に背を向けてしゃがむと、腕を動かす。
「だって、将人をほうっておけないよ」
答えながら、紅は目の前に出された将人の腕を縛っているビニール紐を解くために手を動かす。固く結ばれた紐は簡単には解けない。
――切れれば早いんだけど……。
焦っているからか、うまくできなくて手間取ってしまう。
「……おれに関わるからこういうことになるんだぞっ。忠告しただろうが」
「――何しているのかな?」
気付かれた。
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