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七つの色は心を乱す

*5* 6月20日木曜日、朝

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 六月二十日木曜日、朝。天気は明け方からの雨で煙っている。
 紅は駅前商店街から少し外れた場所にあるエキセシオルビル一階で待っていた抜折羅を発見した。彼は目が合うなり手を振ってくれる。

「おはよう、紅」
「おはよう」

 合流すると、早速抜折羅はポケットから赤い石を取り出した。紅が所有しているスタールビー――フレイムブラッドだ。

「奪われずに済んで良かったな」

 差し出された紅の手のひらに大事に載せられる。一晩だけ預けていたのだ。

「ちっとも良くない」

 不機嫌さを隠すことなく呟く。

「何事もなかったんだろう、外傷もないし。追い返すのに成功したんだと思っていたんだが」

 紅は右手首の決めた位置にフレイムブラッドをつけると歩き出す。
 抜折羅に昨夜のことを言うかどうか悩んだ。しかし、結局は告げないことにした。

 ――〝だから一緒にいろと言ったじゃないか〟と言われるのはしゃくだわ。何もなかったことにしよう。

「そうね。雨戸を音も立てずに開けたのには本当に驚いたわ」
「確かに。あれはどういう仕業しわざなんだろうな。――それはさておき、よく俺に預ける気になったな。提案されたときはどういう風の吹き回しなのかと思ったぞ」
「え?」

 思いがけない問いに、紅は小首を傾げる。

「祖母の形見で奪われるわけにはいかないのはわかるが、簡単に他人に預けられるようなものでもないだろ? ――なぜ俺を選んだ?」

 あのとき近くにいたから――それは確かに理由の一つだ。あまり他の人を巻き込みたくはない。もし、怪盗オパールが紅のもとに現れなければ、預けた人間が危険に晒される。ある程度自衛ができそうという判断も含んでみると、預けられる人間はそういない。

「そ、それは……一応、二回も助けてくれたし、あたしが持っているよりも安全だと思ったのよ。あなた、強いじゃない」
「それなりに信用してもらえているようで、何よりだ。あの会話を思い出すに、相当信用されていないと思っていたからな」
「男として信用していなくても、あなたの仕事にかける情熱や直向ひたむきさは評価しているの。あたしにはそれで充分だったのよ」
「じゃあそういうことにしておこうか」

 そう応える抜折羅が楽しんでいるように見えて、紅は面白くない気分になった。
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