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墓参り
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*****
目覚めてからさらにひと月。季節はすっかり秋になっていた。
リハビリに専念し、やっと退院した典兎だったが、つきつけられた現実は容赦しなかった。
「……どうして?」
見慣れていたはずの家に、真新しい見慣れぬものがあった。
仏壇である。しかもそこには典兎の両親の写真が立て掛けてあった。
典兎の頭の中は真っ白になった。始めは悪い冗談だと思った。ミコトの言っていたことを鵜呑みにしていた典兎には何のことだかわからなかったのだ。
「どういうことなんですかっ! ミコトさんっ……まさか、僕を騙して……!」
今朝、迎えに来たのはミコトだけで、家まで付き添ってくれた。一人で大丈夫だと言ったのについてきた理由に、典兎は今さら気付いて彼女から離れた。
「――そう。あなたのご両親は亡くなったわ」
典兎の青い顔を見ていられなくなったミコトは視線を写真に移す。
「い……いつ? だってミコトさん、僕に説明しましたよね? 父さんと母さんは入院中だって!」
「事故で即死よ。あなただけが助かったの」
(――そんな)
写真の中で微笑む両親の姿を見ながら、全身の力が抜けた典兎はその場に崩れた。
「――悲しむなとは言わないわ。存分に泣きなさい。でも乗り越えて。あなたの両親は、命を引き換えにしてもあなたを守ろうとしたのだから」
「……?」
ミコトの台詞に妙な引っ掛かりを覚えて、典兎は彼女を見る。
「そろそろあたしの正体を明かしましょうか」
言ってミコトはにこりと笑む。異変はそのあとだ。
「な……!」
目の前の不可思議な光景に、典兎は目をぱちくりさせるだけで言葉が出ない。ぐにゃりとミコトの美しい容姿が崩れたかと思うと、それは小さなかたまりとなってうごめく。数秒後にはミコトと名乗っていた女性は、小柄な少女の姿になっていた。
(僕は夢を見ているのか……?)
こんなことなら眠り続けている方がいい。事故に遭ったのは事実だとしても、両親が死んでしまっただなんて信じられない。信じたくない。
「良かった。あなたの目にもこの姿は映っているようね」
典兎と同じ歳くらい――十二、三ほどの少女の姿になったミコトは彼に優しく微笑む。
よく見れば、彼女の肌は赤黒く耳が尖っており、こめかみの上のあたりに小さな白い物体――角が生えているのだった。およそ人間ではない。服装もスーツ姿から着物姿になっていたので、典兎の脳裏には幼い頃に読んでもらった絵本に登場する鬼の姿が浮かんでいた。
「えっと……」
「あら、もっと驚くかと思っていたのに、意外と冷静ね。異形の者に耐性があるのかしら」
怖れるでもなく、典兎は狐につままれたかのような顔をしてミコトを見ている。状況を判断しようと頭の中はフル回転していた。
(異形の者? なんだ、それ。――だけど……怖くないどころか、不思議と懐かしさを感じるのはどうして?)
心を渦巻く戸惑いの気持ちと好奇心。典兎はミコトが何かを告げるのを待っていた。
「改めて自己紹介をするわ。あたしは義典さんに仕えている異形の者なの。式神とか使い魔と言った方がイメージしやすいかしら? 本当は微妙に違うんだけど、とりあえずはそう思って」
(――父さんの式神だって……?)
一体どういうことなのかわからない。きょとんとしている典兎を見て、ミコトはくすっと笑う。
「あなたのお父さんは異形の者を対象とする職業の一つ、スペクターズ・メディエーターだったのよ。っても、ピンとこないでしょうし、彼がその仕事をしていたのも結婚するまでだったけどね」
予想もしていなかった台詞に、典兎は目を丸くする。
(父さんはごく普通のサラリーマンだったはずだ。異形の者だかなんだか知らないが、鬼だか妖怪だかわからん化け物を相手に何かをしていただなんて想像できるわけが……)
「義典さんは、あなたのお母さんとあなたを巻き込みたくなくて、危険を伴うスペクターズ・メディエーターを辞めたの。死と隣り合わせの仕事だから」
言って、ミコトは懐かしげに目を細めた。
「――あたしはある事件をきっかけに、義典さんに従うようになったの。一生懸命な彼の仕事っぷりに惚れたってやつ? あたしの仲間は年甲斐もなくなにやってるんだって馬鹿にしてきたけど、彼にはそれだけの魅力があったのよ。実際、ついていって良かったって思ってる」
「――あの……ミコトさん?」
「あら? 何かしら?」
さらさらと滞りなく告げるミコトの台詞に、冷静さを取り戻し始めた典兎が割り込む。
彼女はなにごとかと疑問符を浮かべて首をかしげる。
「話の腰を折るようで悪いんですが、それとこの状況とどんな繋がりが?」
問われて、ミコトは目をしばたたかせる。そのあとはっと何かを思い出したような顔をして、舌をちょろっと出した。
「あらやだ、あたしったら。どこまで説明したっけ?」
「僕の父さんが以前はスペクターズ・メディエーターっていう職業についていて、ミコトさんが父さんに会ったなれ初め話が始まろうとしたあたり」
典兎がさらりと解説してやると、彼女は赤黒い肌をますます赤く染めた。両手を自身の頬に当てて恥ずかしそうにしている。
(ふうん……。父さんはミコトさんに好かれていたのか)
様子を窺うに、それは明らかであった。大好きな異性の話をする少女の恥じらいにも似た仕草に、典兎は親近感を覚える。
(しかし彼女、外見は自由に変えられるようだが、何歳くらいなんだろう?)
冷静になりすぎて野暮なことをつい考え出してしまう典兎の思考を知ってか知らずか、落ち着きを取り戻したミコトは続きを話し出す。
「――で、あたしのことは置いておいて。……義典さんは結婚を機に転職したわ。それで今まで彼を手伝っていた異形の者たちも去っていった。あたしは行く場所がなかったから、ずっと義典さんのそばにいたんだけどね。だからそばにいさせてもらう代わりに、危険が及ぶことがありそうだったら先回りして助けることもあったんだけど。――だけど」
ミコトの表情が一気に強ばった。
「……あの事故だけは防げなかった」
そのときの光景を思い出し、すぐに消し去りたくて頭を小さく振る。
(――そうだ。今まで助けてくれていたなら、なんで父さんと母さんは……)
責めるわけにもいかず、恨むのも筋違いのような気がして、典兎は黙ってうつ向く。
「何が……あったんですか?」
――父さんと母さんの身に何が。
呟かれた問いに、ミコトは視線をあどけなさの残る典兎の姿に向ける。
「――予期せぬ事故だった。どうしても……どうしても避けられなかった!」
悔しさが声ににじんでいる。涙を堪えているらしく、ミコトは唇をきつく噛んだ。
「――即死だった義典さんと美月さんの意思を読み取り、微かに息をしていたあなたを救うことに専念することしかできなかった……。ごめんなさい。こんな中途半端なことしか……できなくって……」
「あなたが……僕を?」
顔を上げて目に入った泣き出しそうな彼女を前にして、典兎はどうすれば良いのかわからなかった。
「寂しいよね? つらいよね? ――ずっと黙っていてごめんなさい……。どうしても典兎くんには治療に集中して欲しかったから……心配かけさせたくなかったから……こんなことしかできなくてごめんね……本当にごめんね」
(あぁ、彼女も……)
頭を下げて何度も謝るミコトを見て、さすがに典兎も気付いた。大好きな存在を失ったのは彼女も同じなのだと。強がって、大人ぶって誤魔化していても、その想いを隠しきれないものなのだと。
「ミコトさんも……つらかったんでしょう?」
典兎の涙声の台詞に、はっと顔を上げたその瞳には涙がしっかり溜まっていた。
「あなたも泣いた方がいい。そのほうが、父さんも喜ぶように思えるから」
笑顔を作って見つめる典兎の頬には一筋の涙が伝う。
「典兎くん……ありがとう」
ミコトもなんとか笑顔を作ってみたものの、堰を切って溢れ出した涙はなかなか止まることがなかった。
目覚めてからさらにひと月。季節はすっかり秋になっていた。
リハビリに専念し、やっと退院した典兎だったが、つきつけられた現実は容赦しなかった。
「……どうして?」
見慣れていたはずの家に、真新しい見慣れぬものがあった。
仏壇である。しかもそこには典兎の両親の写真が立て掛けてあった。
典兎の頭の中は真っ白になった。始めは悪い冗談だと思った。ミコトの言っていたことを鵜呑みにしていた典兎には何のことだかわからなかったのだ。
「どういうことなんですかっ! ミコトさんっ……まさか、僕を騙して……!」
今朝、迎えに来たのはミコトだけで、家まで付き添ってくれた。一人で大丈夫だと言ったのについてきた理由に、典兎は今さら気付いて彼女から離れた。
「――そう。あなたのご両親は亡くなったわ」
典兎の青い顔を見ていられなくなったミコトは視線を写真に移す。
「い……いつ? だってミコトさん、僕に説明しましたよね? 父さんと母さんは入院中だって!」
「事故で即死よ。あなただけが助かったの」
(――そんな)
写真の中で微笑む両親の姿を見ながら、全身の力が抜けた典兎はその場に崩れた。
「――悲しむなとは言わないわ。存分に泣きなさい。でも乗り越えて。あなたの両親は、命を引き換えにしてもあなたを守ろうとしたのだから」
「……?」
ミコトの台詞に妙な引っ掛かりを覚えて、典兎は彼女を見る。
「そろそろあたしの正体を明かしましょうか」
言ってミコトはにこりと笑む。異変はそのあとだ。
「な……!」
目の前の不可思議な光景に、典兎は目をぱちくりさせるだけで言葉が出ない。ぐにゃりとミコトの美しい容姿が崩れたかと思うと、それは小さなかたまりとなってうごめく。数秒後にはミコトと名乗っていた女性は、小柄な少女の姿になっていた。
(僕は夢を見ているのか……?)
こんなことなら眠り続けている方がいい。事故に遭ったのは事実だとしても、両親が死んでしまっただなんて信じられない。信じたくない。
「良かった。あなたの目にもこの姿は映っているようね」
典兎と同じ歳くらい――十二、三ほどの少女の姿になったミコトは彼に優しく微笑む。
よく見れば、彼女の肌は赤黒く耳が尖っており、こめかみの上のあたりに小さな白い物体――角が生えているのだった。およそ人間ではない。服装もスーツ姿から着物姿になっていたので、典兎の脳裏には幼い頃に読んでもらった絵本に登場する鬼の姿が浮かんでいた。
「えっと……」
「あら、もっと驚くかと思っていたのに、意外と冷静ね。異形の者に耐性があるのかしら」
怖れるでもなく、典兎は狐につままれたかのような顔をしてミコトを見ている。状況を判断しようと頭の中はフル回転していた。
(異形の者? なんだ、それ。――だけど……怖くないどころか、不思議と懐かしさを感じるのはどうして?)
心を渦巻く戸惑いの気持ちと好奇心。典兎はミコトが何かを告げるのを待っていた。
「改めて自己紹介をするわ。あたしは義典さんに仕えている異形の者なの。式神とか使い魔と言った方がイメージしやすいかしら? 本当は微妙に違うんだけど、とりあえずはそう思って」
(――父さんの式神だって……?)
一体どういうことなのかわからない。きょとんとしている典兎を見て、ミコトはくすっと笑う。
「あなたのお父さんは異形の者を対象とする職業の一つ、スペクターズ・メディエーターだったのよ。っても、ピンとこないでしょうし、彼がその仕事をしていたのも結婚するまでだったけどね」
予想もしていなかった台詞に、典兎は目を丸くする。
(父さんはごく普通のサラリーマンだったはずだ。異形の者だかなんだか知らないが、鬼だか妖怪だかわからん化け物を相手に何かをしていただなんて想像できるわけが……)
「義典さんは、あなたのお母さんとあなたを巻き込みたくなくて、危険を伴うスペクターズ・メディエーターを辞めたの。死と隣り合わせの仕事だから」
言って、ミコトは懐かしげに目を細めた。
「――あたしはある事件をきっかけに、義典さんに従うようになったの。一生懸命な彼の仕事っぷりに惚れたってやつ? あたしの仲間は年甲斐もなくなにやってるんだって馬鹿にしてきたけど、彼にはそれだけの魅力があったのよ。実際、ついていって良かったって思ってる」
「――あの……ミコトさん?」
「あら? 何かしら?」
さらさらと滞りなく告げるミコトの台詞に、冷静さを取り戻し始めた典兎が割り込む。
彼女はなにごとかと疑問符を浮かべて首をかしげる。
「話の腰を折るようで悪いんですが、それとこの状況とどんな繋がりが?」
問われて、ミコトは目をしばたたかせる。そのあとはっと何かを思い出したような顔をして、舌をちょろっと出した。
「あらやだ、あたしったら。どこまで説明したっけ?」
「僕の父さんが以前はスペクターズ・メディエーターっていう職業についていて、ミコトさんが父さんに会ったなれ初め話が始まろうとしたあたり」
典兎がさらりと解説してやると、彼女は赤黒い肌をますます赤く染めた。両手を自身の頬に当てて恥ずかしそうにしている。
(ふうん……。父さんはミコトさんに好かれていたのか)
様子を窺うに、それは明らかであった。大好きな異性の話をする少女の恥じらいにも似た仕草に、典兎は親近感を覚える。
(しかし彼女、外見は自由に変えられるようだが、何歳くらいなんだろう?)
冷静になりすぎて野暮なことをつい考え出してしまう典兎の思考を知ってか知らずか、落ち着きを取り戻したミコトは続きを話し出す。
「――で、あたしのことは置いておいて。……義典さんは結婚を機に転職したわ。それで今まで彼を手伝っていた異形の者たちも去っていった。あたしは行く場所がなかったから、ずっと義典さんのそばにいたんだけどね。だからそばにいさせてもらう代わりに、危険が及ぶことがありそうだったら先回りして助けることもあったんだけど。――だけど」
ミコトの表情が一気に強ばった。
「……あの事故だけは防げなかった」
そのときの光景を思い出し、すぐに消し去りたくて頭を小さく振る。
(――そうだ。今まで助けてくれていたなら、なんで父さんと母さんは……)
責めるわけにもいかず、恨むのも筋違いのような気がして、典兎は黙ってうつ向く。
「何が……あったんですか?」
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呟かれた問いに、ミコトは視線をあどけなさの残る典兎の姿に向ける。
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悔しさが声ににじんでいる。涙を堪えているらしく、ミコトは唇をきつく噛んだ。
「――即死だった義典さんと美月さんの意思を読み取り、微かに息をしていたあなたを救うことに専念することしかできなかった……。ごめんなさい。こんな中途半端なことしか……できなくって……」
「あなたが……僕を?」
顔を上げて目に入った泣き出しそうな彼女を前にして、典兎はどうすれば良いのかわからなかった。
「寂しいよね? つらいよね? ――ずっと黙っていてごめんなさい……。どうしても典兎くんには治療に集中して欲しかったから……心配かけさせたくなかったから……こんなことしかできなくてごめんね……本当にごめんね」
(あぁ、彼女も……)
頭を下げて何度も謝るミコトを見て、さすがに典兎も気付いた。大好きな存在を失ったのは彼女も同じなのだと。強がって、大人ぶって誤魔化していても、その想いを隠しきれないものなのだと。
「ミコトさんも……つらかったんでしょう?」
典兎の涙声の台詞に、はっと顔を上げたその瞳には涙がしっかり溜まっていた。
「あなたも泣いた方がいい。そのほうが、父さんも喜ぶように思えるから」
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