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後日譚・番外編置き場
姫始めといきましょうか?(前編)
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番外編 姫始めといきましょうか?
新年になって二日目。神殿の業務が始まった。この縁結びの神殿も例外ではない。
私、レネレットはシスターの見習いとして神職の手伝いをした。大したことはできなくても、人の案内くらいはできる。この神殿が王都を拠点としているというだけあって、商人や宮殿で仕事をしている人など様々な人々が訪れては祈りを捧げていった。
こんなにたくさんの人が信仰しているのね。確かに暇じゃないわ。
忙しいから教典を読むようにと押し付けられて軟禁されていたこともあったが、毎日これだけの人を相手にしているわけではないとはいえ、繁忙期は大変なのだろう。
去年は私のゴタゴタに巻き込ませてしまったし、きちんと仕事を覚えて少しはオスカーの役に立たないとね。
頑張って、オスカーに認められることが今の私の生き甲斐だ。そして余力があれば、オスカーの弱みを握ってあたふたさせてやりたい。からかわれるだけの私ではないのである。
日が暮れるとともに仕事が終わる。私は先にあがって、家事に取り掛かった。私が押しかけるまで、オスカーは一人できちんと家事をこなして生活をしていたというのだから、心底尊敬する。応対くらいしかしていないのに、この時点で私はヘトヘトだ。
でも、弱音は吐かないって決めているんだからね! オスカーによくできた妻だと認めてもらうんだから!
神父との婚姻は宗教的な都合もあって国から認めてもらえない。だからこそ、オスカーにだけは認めてもらいたいのである。頑張れ、私!
たくさんの応対をして疲労が溜まっているだろうオスカーを労うのは妻の役目。温かい食事と風呂の準備を終えた時、オスカーが神殿の離れにある屋敷に帰ってきた。
「レネレットさん。今日はお疲れ様でした」
予想していた通り、オスカーは少々疲れた顔をしている。
私はとびきりの笑顔を作った。私だって疲れてはいるけれど、この笑顔で元気を出してもらえるならお安いもんだわ。
「お帰りなさい、オスカー。食事が先? それともお風呂? どっちも準備できてるわよ」
どうだっ、元伯爵令嬢だってやればできるのよ!
自慢げに胸を張って言ってやると、オスカーはツカツカと私の前にやって来た。そして私はぎゅっと抱き締められる。
「……ん?」
「そういう台詞の後には、『私にする?』と愛らしく尋ねるものですよ、レネレット」
お、呼び捨てにされた?
顔を上げてオスカーの表情を伺うと、頬に手が添えられてキスされた。
「むぅっ⁉︎」
キスをされて、ようやく彼が言った「私にする?」の意味を理解した。一気に体温が上がる。
「って、私、その台詞言ってないから!」
まだ抱き締められたままだ。バタバタ足掻くと、オスカーはクスクスと笑っている。
「一緒にお風呂に入りましょうか。あなたもお疲れでしょう? 身体を洗って差し上げますよ」
「つ、疲れてないもん! 一人で入るから大丈夫! それにオスカー、あなた、洗うだけじゃないじゃないっ!」
抗議すると、オスカーは再びキスをくれた。今度は深いキス。
うう……オスカーはずるい……
こういうキスをされてしまうと、どうしても蕩けてしまう。慣れるようなものではない。
「――夫婦というものは、そういうものだとお聞きしましたが。それに、僕は子どもがほしいと言っているでしょう?」
「う……だって……」
恥ずかしいものは恥ずかしいし、なんか変な気分になるから怖いのである。
「ほら、お湯が冷めてしまいます。食事を温めるほうが簡単ですからね。行きますよ」
抵抗するまでもなく横抱きにされてしまった。もう逃げられない。諦めるしかないだろう。
「……優しくしてよね?」
「僕はいつだって優しいでしょう?」
「その言い方が優しくないのよ」
私が膨れると、オスカーは幸せそうに笑う。こういう時の彼は活き活きとしていて、なんとも複雑な気持ちだ。
オスカーが喜んでいるなら……って思えるほど、私の心は広くないんですけど。
私の不満は溜まる一方だ。
新年になって二日目。神殿の業務が始まった。この縁結びの神殿も例外ではない。
私、レネレットはシスターの見習いとして神職の手伝いをした。大したことはできなくても、人の案内くらいはできる。この神殿が王都を拠点としているというだけあって、商人や宮殿で仕事をしている人など様々な人々が訪れては祈りを捧げていった。
こんなにたくさんの人が信仰しているのね。確かに暇じゃないわ。
忙しいから教典を読むようにと押し付けられて軟禁されていたこともあったが、毎日これだけの人を相手にしているわけではないとはいえ、繁忙期は大変なのだろう。
去年は私のゴタゴタに巻き込ませてしまったし、きちんと仕事を覚えて少しはオスカーの役に立たないとね。
頑張って、オスカーに認められることが今の私の生き甲斐だ。そして余力があれば、オスカーの弱みを握ってあたふたさせてやりたい。からかわれるだけの私ではないのである。
日が暮れるとともに仕事が終わる。私は先にあがって、家事に取り掛かった。私が押しかけるまで、オスカーは一人できちんと家事をこなして生活をしていたというのだから、心底尊敬する。応対くらいしかしていないのに、この時点で私はヘトヘトだ。
でも、弱音は吐かないって決めているんだからね! オスカーによくできた妻だと認めてもらうんだから!
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たくさんの応対をして疲労が溜まっているだろうオスカーを労うのは妻の役目。温かい食事と風呂の準備を終えた時、オスカーが神殿の離れにある屋敷に帰ってきた。
「レネレットさん。今日はお疲れ様でした」
予想していた通り、オスカーは少々疲れた顔をしている。
私はとびきりの笑顔を作った。私だって疲れてはいるけれど、この笑顔で元気を出してもらえるならお安いもんだわ。
「お帰りなさい、オスカー。食事が先? それともお風呂? どっちも準備できてるわよ」
どうだっ、元伯爵令嬢だってやればできるのよ!
自慢げに胸を張って言ってやると、オスカーはツカツカと私の前にやって来た。そして私はぎゅっと抱き締められる。
「……ん?」
「そういう台詞の後には、『私にする?』と愛らしく尋ねるものですよ、レネレット」
お、呼び捨てにされた?
顔を上げてオスカーの表情を伺うと、頬に手が添えられてキスされた。
「むぅっ⁉︎」
キスをされて、ようやく彼が言った「私にする?」の意味を理解した。一気に体温が上がる。
「って、私、その台詞言ってないから!」
まだ抱き締められたままだ。バタバタ足掻くと、オスカーはクスクスと笑っている。
「一緒にお風呂に入りましょうか。あなたもお疲れでしょう? 身体を洗って差し上げますよ」
「つ、疲れてないもん! 一人で入るから大丈夫! それにオスカー、あなた、洗うだけじゃないじゃないっ!」
抗議すると、オスカーは再びキスをくれた。今度は深いキス。
うう……オスカーはずるい……
こういうキスをされてしまうと、どうしても蕩けてしまう。慣れるようなものではない。
「――夫婦というものは、そういうものだとお聞きしましたが。それに、僕は子どもがほしいと言っているでしょう?」
「う……だって……」
恥ずかしいものは恥ずかしいし、なんか変な気分になるから怖いのである。
「ほら、お湯が冷めてしまいます。食事を温めるほうが簡単ですからね。行きますよ」
抵抗するまでもなく横抱きにされてしまった。もう逃げられない。諦めるしかないだろう。
「……優しくしてよね?」
「僕はいつだって優しいでしょう?」
「その言い方が優しくないのよ」
私が膨れると、オスカーは幸せそうに笑う。こういう時の彼は活き活きとしていて、なんとも複雑な気持ちだ。
オスカーが喜んでいるなら……って思えるほど、私の心は広くないんですけど。
私の不満は溜まる一方だ。
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