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アフターストーリー【不定期更新】

ビールとくじ運

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 都合があって駅前のコンビニに頻繁に立ち寄るために、そこで買い物を済ませてしまうことが多い。スーパーマーケットと比べたら割高ではあるのだけども、コンビニ限定の商品で気になるものがあればそこで購入せざるを得ないわけで、結局いろいろ買わされる。
 で。最近はノンアルコール飲料も充実しており、家飲みを一人でしてはいけないと言いつけられている身としてはとてもありがたい状況である。最近のノンアルコール飲料はジュースっぽいものから本当にアルコールが入っていないのかと疑いたくなる品まであってとても驚く。カクテル系もチューハイ系も言わずもがなビール系もとても美味しい。日本酒系で口に合うものには出会えていないけれど、それは多分自分の故郷のお酒に強い思い入れがあるせいで――いや、これだけ語りたくなるあたり、私がいかに様々な商品を試しているんだって話なんだけど、それはさておき。
 それで、新商品の販促として、購入すると別の商品の無料券や割引券を発行してくれるのである。レシートにおまけとしてついてきたり、そのコンビニのアプリやSNS連携とかの抽選でもらえたり。ほんと、多種多様。
 そしたら、ノンアルコール缶を一本買ったのをきっかけに、なんかずっとそれ以降ビールの引換券が当たり続けているのだった。
 なんでこんなことに。美味しいから飲むけど。

「弓弦ちゃん、おかえり」
「ただいま」
「おや、今日も麦酒かい?」

 私が提げてきたエコバッグをチラリと見やって、彼が尋ねた。

「うん。なんかアプリのくじを引いたら当たったので。せっかくだから引き換えてきたんです」

 貧乏性なので、あったらあったで飲むだろうと思って引き換えてしまう。なお、無料券で購入したことになるので、また購入者向けのくじを引くことができる。ちなみになんと、これで六回目の大当たり中だ。

「ふぅん。お酒を飲む口実かな?」
「そういうわけではないですよ。晩酌は好きですけど」

 荷物を片付けて手洗いうがいをしてダイニングに戻る。彼は夕食の準備中だ。

「昔からくじ運は良い方ですけど、ここのところのビール交換率は異常です。神様さん、裏でなんかやってるんですか?」

 彼、こと、神様さんは私にとって都合のいい怪異である。現象に干渉して結果を変えることができるらしいことは経験から察しているが、それがどのくらいの範囲まで可能なのかは知らないし、そもそもその力を積極的に頼ろうとも私は思っていない。
 私の質問に、彼は手を止める。

「うーん、僕は特別なことはしていないかな。偶然だよ」
「本当に?」
「僕が干渉するなら、君がへべれけになるくらいたくさん飲めるように仕向けるかな。その方が弓弦ちゃん、乗り気になってくれるし」
「あー、なるほど」

 その説明を本気で納得したわけではないが、彼が私にビールを奢りたくなるほど飲酒に興味があるわけでもなさそうだ。晩酌タイムが好きなのは事実だろうが。
 私は寝室に入って部屋着に着替えるとダイニングに戻る。夕食の準備ができている。今日のメニューは市販のソースに絡めるだけで作れる回鍋肉だ。わかめと卵の中華スープがあって、小皿にキムチが載っている。美味しそうだ。

「麦酒も飲むかな? ご飯はいる?」
「ご飯は少なめで、ビールも飲みます」
「了解」

 ささっと準備してくれる様はとても手慣れている。バイト先はキッチンで働いているので、料理の手際はよくなっているのだろう。決してここで家事に勤しんでいるからではない……と思いたい。

「いただきます」
「どうぞ召し上がれ」

 仕事上がりの一杯はとても幸せである。私はお酒が好きだ。

「ふふ。幸せそうでなにより」
「帰ってすぐに温かい食事が出てくるのは最高ですよ。自分で温めるのも億劫だったので」

 彼がここで暮らすようになるまで、外食が中心だった。できるだけ定食屋を中心に回っていたのは家で食べるような料理が恋しかったからだ。でも、長時間労働でそれすらも選べなくなるほど、仕事に振り回されていたのだけど。

「この程度の君の望みくらいは朝飯前さ」

 ふんわりと優しく微笑まれてしまうと、胸がときめいてしまう。この綺麗な顔が大変好みなのだが、イケメンは三日で飽きるだろうと思って生きてきたのにずっと飽きずに二年目に突入しているんだから、私って単純だなと思う。

「あなたの負担になっていないならいいんですよ」
「僕の性に合っているんだろうねえ」

 そう返して、彼ももぐもぐ食べる。楽しそうだ。
 神様さんは怪異なので食べる必要はないらしいのだけど、こうして私と一緒に食べてくれる。私の味の好みをリサーチするためだと気づいたのは最近だけど、仕事をするうえでも必要な感覚を養おうとしているとも言えた。勉強熱心だ。

「そう言えば、繁盛しているらしいじゃないですか」
「うん?」
「アニキの店」

 正確にはアニキは店長ではないのでアニキの店ではなく、アニキが働いている店である。まあ、副店長ではあるんだが。
 私が話題を変えると、彼は私を見て目をパチパチとさせた。

「受験シーズンの始まりとあって、合格祈願で訪ねてくるお客さんが多いんでしょ?」
「そうみたいだねえ。運気が上がるらしいよ」

 他人事である。彼が裏で何かしている気配はない。

「無関係なんです?」
「僕は意図的には嘘はつけないよ。人間側の勝手な思い込みさ」
「じゃあ、そういう触れ込みで宣伝をしているってことなのかな……」

 私が使っていないSNSで話題になっている。私の仕事先で話題になっていたのを知って驚いたのだった。

「あ、でも、夕方よりも昼間の方がご利益があるって書いてありましたよ?」
「あっはっは。僕にはそこまでの力はないよ。それなりに繁盛してくれれば、梓くんに喜んでもらえるかなとは思っているけどねえ」
「それなりに?」

 私は缶ビールをぐびっと飲む。彼はご飯に回鍋肉を乗せてパクッと大きな口で頬張る。

「うーん。ほら、あまり調子に乗って事業拡大をされたくはないからさ。ほどほどに忙しく、がいいんだよねえ」
「それは神様さんの意見ですか? それとも、アニキや店長さんの?」

 中華スープを啜って、彼は私を見る。

「これは、僕の、だね。弓弦ちゃんのご飯を作る時間がなくなってしまったら本末転倒だから」
「店で作ったものでも構いませんけど」
「それだと、麦酒に合わないからねえ」
「って、やっぱりこのビール、あなたの仕業じゃないですか」
「弓弦ちゃんの意思に沿うようにしただけさ」

 そう告げて、彼は笑った。
 そんなに飲みたい気分だったかな……いや、当たったら飲もうと思っていたのは事実だけど。
 微妙に納得できない。

「僕にもひと口ちょうだい」

 私が飲んでいた缶ビールをひょいっと取って、彼は口付ける。妙に色っぽい。

「……ふふ、間接的なのじゃなくて、直接がよかったかい?」

 じっと見つめていたことに気づいて、私は缶ビールを奪い返してぐいっとあおった。

「今は夕食中なのでこれで充分です!」

 私が宣言すると、彼は満足したのかふにゃりと笑った。

「食事を終えたら一緒にお風呂に入ろう? ふふ。飲酒後の入浴は命の危険があるから念のためだよ」
「……わ、わかってますよ」

 顔が赤くなっているのはお酒のせいだ。心臓がドキドキとうるさいのもお酒のせいだ。
 私は自分に言い聞かせて、夕食の箸を進めるのだった。

《終わり》
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