欲望の神さま拾いました【本編完結】

一花カナウ

文字の大きさ
上 下
68 / 96
神さま(?)拾いました【本編完結】

12.尽くす神様なんだよ

しおりを挟む

「じゃあ、弓弦。何かあったら気兼ねなく連絡を寄越せ。何かしら対応するから」

 大袈裟だなあと思いつつも、心配性な兄の言葉である。私は素直に頷いた。
 兄が出て行くと、私の背後に彼が近づいてきた。

「僕をしっかり牽制してから帰るなんて、出来のいい兄だねえ」
「これまでにいろいろありすぎたんですよ」

 食器棚からスプーンとフォークを取り出す。そこでふと彼を見た。

「夕食はどうしますか? 二人分用意してくれたみたいなんですが」
「ありがたくいただいておこうかな。君と同じものを食べるのは楽しいんだ」
「味覚ってあるんですか?」

 食べたいというので、彼の分のスプーンとフォークも取り出してテーブルに置く。紅茶のためにお湯を沸かそうと思ってコンロを見たら既に薬缶がセットされていた。彼がやってくれたらしい。

「人間と同じかどうかはわからないけど、美味しいか口に合わないかはわかるかな。ちなみに、味に関係なくお酒は好きだよ」

 上機嫌な様子で彼は笑った。お酒が好きなのは本当なのだろうと思う。

「神様さんはそういう感じなんですね」
「あと、弓弦ちゃんも美味しいと思ってる」
「私は食べ物じゃないです。それに昨夜の私を美味しいと感じていたのであれば、それは私が泥酔していたからでしょうね……」

 自分用と来客用のマグカップを二つ取り出した。お湯を注げば抽出できるように準備する。

「確かに、昨夜の君からはお酒のにおいがしたねえ。ずいぶんとたくさん飲んでいた」
「飲みたい気分だったんです」

 ケイスケの部屋から出てきた女の顔を思い出して、すぐに頭を振って記憶を消去した。もう二度と顔を合わせるのものか。

「今夜は飲まないのかい?」

 食べる準備をしながら、彼が尋ねてくる。私の不安定な感情を察したのかもしれない。

「飲みません。そもそも家で呑み潰れちゃうといけないから、アルコール類は置いていないですしね」

 その返事に、彼はふむと唸った。

「差し入れの中にもお酒はなかったみたいだね」
「アニキは私が家で一人飲みをしないことを知っているから持ち込まないんですよ」
「今日は僕がいるのに」
「いるから、余計にじゃないですかね」
「ああ、なるほど」

 お湯が沸いてマグカップに注ぐ。薬缶をコンロに戻すと、私たちはブランチのときと同じ場所にそれぞれ座った。手を合わせていただきますをする。

「――では早速」

 ドリアをスプーンですくって口に運ぶ。温かい湯気が食欲をそそる。

「美味しい!」

 底に入っているのはバターライスだろうか。ホワイトソースと混ざるとなお美味しい。少し冷めてはいるものの、食べやすい温度とも言えた。私は猫舌だ。

「ふぅん。興味深いな」

 彼もよく味わって食べているようだ。大きなひと口が豪快ではあるけども、それがまたすごく美味しそうに見えた。

「レギュラーメニューにならないかなあ。あとでアニキに感想を送っておかなきゃ」
「珍しい食べ物なのかい?」

 私がはしゃいだからだろう。彼が不思議そうに首を傾げた。

「注文できる料理の一覧にはなかったので、アニキのいるお店で食べることを考えたら珍しいです。ただし、ファミレスや冷凍食品にもある料理ではあるので、特別珍しい品物ではないですよ」
「そういうものなのか」

 なるほどとばかりにしみじみと頷いている。そんなに美味しかったのだろうか。

「気に入ったなら、アニキに伝えておきますけど」
「君がとっても幸せそうだから興味を持っただけだよ。僕も作れるのかな?」

 作れるのかな、だと?
 私は驚いて、食べる手を止めじっと彼を見た。

「神様さんは料理ができるんです?」
「君が喜ぶことならしてみたいよ」
「そういう基準なんですね」
「僕は尽くす神様なのさ」
「なんですか、それ」

 私は笑う。尽くしてくれているのはこれまでの態度から分かるので、私のためという名目で行動するのは好きなのだろう。
 他愛ない会話をしながらの美味しい食事の時間はあっという間に過ぎ去ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

便利屋ブルーヘブン、営業中。~そのお困りごと、大天狗と鬼が解決します~

卯崎瑛珠
キャラ文芸
とあるノスタルジックなアーケード商店街にある、小さな便利屋『ブルーヘブン』。 店主の天さんは、実は天狗だ。 もちろん人間のふりをして生きているが、なぜか問題を抱えた人々が、吸い寄せられるようにやってくる。 「どんな依頼も、断らないのがモットーだからな」と言いつつ、今日も誰かを救うのだ。 神通力に、羽団扇。高下駄に……時々伸びる鼻。 仲間にも、実は大妖怪がいたりして。 コワモテ大天狗、妖怪チート!?で、世直しにいざ参らん! (あ、いえ、ただの便利屋です。) ----------------------------- ほっこり・じんわり大賞奨励賞作品です。 アルファポリス文庫より、書籍発売中です!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...