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初詣はあなたと。
おみくじの有効期限
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※※※※※
卒業して、就職して。
環境が大きく変わったその年の暮れ。私は体調を崩していた。
「……ごめん。そっちに帰れそうにない。うん、大丈夫。病院も近いし、何かあったら連絡できるから。うん、うん。おせち、楽しみだったんだよ。お土産話もたくさんあったの。ごめん、うん。じゃあ、またね」
通話を切って、私は泣いた。帰るつもりでいたのに、帰れなかった。年末年始しか長く休むことができない仕事なので、次に帰郷するのは一年後だ。悔しい。
「そういえば……旅行は計画どおりにいかないみたいなこと、書いてあったなあ……」
おみくじのことを思い出しながら、私は布団に潜り込んだ。
※※※※※
年が明けた。一人の朝なんて慣れっこになってきたはずなのに、新年を一人で迎えると泣けてくる。誰かと通話しながら新年を迎えようなんて考えていたのに、薬を飲んで横になったら初日の出も見逃した。
「まじか……」
頭痛は残っているが、幸い熱は下がった。私はスマホを見やると、一件の通知に気づいた。
「麗央?」
電話があったらしい。私は気づくと通話ボタンを押していた。
コール音。
「はっぴぃにゅういやぁ。調子はどうだい?」
「あけましておめでとう、麗央。熱は下がったみたい」
「そう」
「麗央は今年、実家なんだよね? ごめんね、行き違いになっちゃった。ウチの両親によろしく伝えて」
「それは電話で自分で言いなよ」
麗央の声に混じって色々な声が聞こえる。賑やかな場所にいるようだ。
「そう……だね。あとで電話かけるわ」
「うんうん。それがいいよ」
「電話、掛けてくれたのに出られなくてごめんね。なんの用事だったの?」
「一番に君の声が聞きたかっただけだよ」
「聞かせられなくてごめんね」
「何を謝っているのかなあ。……ねえ、動けそう?」
「動けはするけど」
なんだろう。電話しながら外でも行こうって話だろうか。
「じゃあ、すぐに行くね」
「行くって……え?」
普通に考えて、実家からここまでは最短でも四時間くらいかかる。何を言っているんだろう。お酒でも入っているのか、それとも私の幻聴か。
通話は切れていて、履歴にはそれがちゃんと記録されている。どういうことだろう。
スマホを見つめていると、今度はインターホンが鳴った。びっくりして出れば、懐かしい顔が画面の向こうにある。
幻覚……? 熱、上がったのかな。
信用できなくて無視したら、スマホが鳴った。麗央からだし、インターホンの画面に映る彼もスマホを耳に当てている。
「えっ、もしもし?」
「出て。ちゃんといるから」
ドアの向こうで軽く叩く音がした。
私はパジャマのままドアを開ける。そこには麗央がいた。手には大きめの紙袋。
「ええ?」
「届けてって、おかあさんが……って、咲希(さき)のお母さんのほうね。頼まれたから来た」
ニコッと麗央が笑う。夢にしか感じられなくて彼の頬を摘むと、困ったように眉を下げた。
「痛いよ。こういうときは自分の頬を摘むんじゃないのかな」
「実在するのか疑わしくて、つい」
手を離すと、麗央は私の部屋に遠慮なく入ってくる。
「って、ちょっと待って。片付いてないし、寝込んだあとだし、汚いから!」
「大丈夫大丈夫。足の踏み場はあるから」
「大丈夫じゃないから止めてるの!」
「ふふ。元気そうで何よりだよ」
狭いキッチンの空いている場所にタッパーの山を置いて、麗央は嬉しそうに笑う。
「……なんで」
「なんでって?」
「麗央がウチに?」
「頼まれたからって言ったよ?」
「それは、そうだけど」
「さすがに会いたくなってね。恋愛、攻めの姿勢がよし、だったんだ、前回のおみくじ」
「待人じゃなくて?」
「恋愛、だよ。縁談も待つよりは願いの通りに行動せよ、だし、旅行も行き先で幸ありだったからねえ」
「……なにそれ」
もう、おみくじの有効期限が過ぎているんじゃないかと思うけど。
私は笑った。
「おせち、もらってきたから一緒に食べよう。元気が出てきたら、初詣、一緒にどうかなあ」
「元気が出たら、ね」
私は返事をして、お皿を探す。一人暮らしの部屋にそんなに皿はないのだけど、お母さんが紙皿と祝い箸をつけてくれていた。ふたりで食べるようにということらしい。
久しぶりにふたりで食べる食事はとても嬉しくて幸せで。一緒にそのあと初詣に行った。おみくじの結果は、内緒だ。
※※※※※
なお、麗央が私の家に行った理由が私に告白するより先に両親に挨拶に行ったからなのだと知るのは次の帰省のときである。気が早いぞ。
《終わり》
卒業して、就職して。
環境が大きく変わったその年の暮れ。私は体調を崩していた。
「……ごめん。そっちに帰れそうにない。うん、大丈夫。病院も近いし、何かあったら連絡できるから。うん、うん。おせち、楽しみだったんだよ。お土産話もたくさんあったの。ごめん、うん。じゃあ、またね」
通話を切って、私は泣いた。帰るつもりでいたのに、帰れなかった。年末年始しか長く休むことができない仕事なので、次に帰郷するのは一年後だ。悔しい。
「そういえば……旅行は計画どおりにいかないみたいなこと、書いてあったなあ……」
おみくじのことを思い出しながら、私は布団に潜り込んだ。
※※※※※
年が明けた。一人の朝なんて慣れっこになってきたはずなのに、新年を一人で迎えると泣けてくる。誰かと通話しながら新年を迎えようなんて考えていたのに、薬を飲んで横になったら初日の出も見逃した。
「まじか……」
頭痛は残っているが、幸い熱は下がった。私はスマホを見やると、一件の通知に気づいた。
「麗央?」
電話があったらしい。私は気づくと通話ボタンを押していた。
コール音。
「はっぴぃにゅういやぁ。調子はどうだい?」
「あけましておめでとう、麗央。熱は下がったみたい」
「そう」
「麗央は今年、実家なんだよね? ごめんね、行き違いになっちゃった。ウチの両親によろしく伝えて」
「それは電話で自分で言いなよ」
麗央の声に混じって色々な声が聞こえる。賑やかな場所にいるようだ。
「そう……だね。あとで電話かけるわ」
「うんうん。それがいいよ」
「電話、掛けてくれたのに出られなくてごめんね。なんの用事だったの?」
「一番に君の声が聞きたかっただけだよ」
「聞かせられなくてごめんね」
「何を謝っているのかなあ。……ねえ、動けそう?」
「動けはするけど」
なんだろう。電話しながら外でも行こうって話だろうか。
「じゃあ、すぐに行くね」
「行くって……え?」
普通に考えて、実家からここまでは最短でも四時間くらいかかる。何を言っているんだろう。お酒でも入っているのか、それとも私の幻聴か。
通話は切れていて、履歴にはそれがちゃんと記録されている。どういうことだろう。
スマホを見つめていると、今度はインターホンが鳴った。びっくりして出れば、懐かしい顔が画面の向こうにある。
幻覚……? 熱、上がったのかな。
信用できなくて無視したら、スマホが鳴った。麗央からだし、インターホンの画面に映る彼もスマホを耳に当てている。
「えっ、もしもし?」
「出て。ちゃんといるから」
ドアの向こうで軽く叩く音がした。
私はパジャマのままドアを開ける。そこには麗央がいた。手には大きめの紙袋。
「ええ?」
「届けてって、おかあさんが……って、咲希(さき)のお母さんのほうね。頼まれたから来た」
ニコッと麗央が笑う。夢にしか感じられなくて彼の頬を摘むと、困ったように眉を下げた。
「痛いよ。こういうときは自分の頬を摘むんじゃないのかな」
「実在するのか疑わしくて、つい」
手を離すと、麗央は私の部屋に遠慮なく入ってくる。
「って、ちょっと待って。片付いてないし、寝込んだあとだし、汚いから!」
「大丈夫大丈夫。足の踏み場はあるから」
「大丈夫じゃないから止めてるの!」
「ふふ。元気そうで何よりだよ」
狭いキッチンの空いている場所にタッパーの山を置いて、麗央は嬉しそうに笑う。
「……なんで」
「なんでって?」
「麗央がウチに?」
「頼まれたからって言ったよ?」
「それは、そうだけど」
「さすがに会いたくなってね。恋愛、攻めの姿勢がよし、だったんだ、前回のおみくじ」
「待人じゃなくて?」
「恋愛、だよ。縁談も待つよりは願いの通りに行動せよ、だし、旅行も行き先で幸ありだったからねえ」
「……なにそれ」
もう、おみくじの有効期限が過ぎているんじゃないかと思うけど。
私は笑った。
「おせち、もらってきたから一緒に食べよう。元気が出てきたら、初詣、一緒にどうかなあ」
「元気が出たら、ね」
私は返事をして、お皿を探す。一人暮らしの部屋にそんなに皿はないのだけど、お母さんが紙皿と祝い箸をつけてくれていた。ふたりで食べるようにということらしい。
久しぶりにふたりで食べる食事はとても嬉しくて幸せで。一緒にそのあと初詣に行った。おみくじの結果は、内緒だ。
※※※※※
なお、麗央が私の家に行った理由が私に告白するより先に両親に挨拶に行ったからなのだと知るのは次の帰省のときである。気が早いぞ。
《終わり》
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