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すべての始まり

初めての客

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「モニック・ラルフです」

 お客さまを専用の部屋に案内すると、私は改めて名乗った。

 官僚なのか魔導師なのか……なんとも言えない格好ね。

 私を選んだ客は、四十歳前後の男性だった。灰色の髪はこの国でよく見かける色でふんわり柔らか、褐色の瞳もとりわけ珍しい色ではない。顔立ちはハンサム。優しそうに見える。見目が良いので、女性にことかかないんじゃないかと感じられた。
 光沢を感じるドレスシャツに派手な色合いのベストを合わせ、裾に刺繍が施されたトラウザーズを穿いている。その格好は貴族たちの定番ではあるが、裏を返せばわかり得るのはその程度ともいえる。
 お客の個人的なことを聞き出すのはご法度なので、娼婦という立場では見た目からの情報しか得られない。もちろん、経営者側の人間であれば、この男性客の素性は知れただろう。

「どうぞよろしくお願いいたします」

 私が今日初めて店に出た人間であることは彼に知られている。その上で、彼は私を指名してくれた。なんでも、前に店に来たときに裏方仕事をしていた私を見て、もし店に出ることがあるなら買いたいと申し出ていたそうだ。

 予約されているならそう教えてくれたらよかったのに。

 常連客らしいことは周りのお姉さんがたの態度からすぐにわかった。予約していたというエピソードも添えられれば、この男性客がよく出入りしていたことは想像に容易い。

 でも、私、この人の見覚えはないんだけど。

 表に立つことがほとんどなかったとはいえ、お姉さんたちのサポートとして店内を歩くことくらいはある。物覚えはいいほうだと自認していただけに、そこが少々引っかかったのだった。

「初めてだと考えてよろしいのかな?」

 穏やかな話し方をする人だ。にこやかに微笑む様子を見ると、これから身体の関係になるなんて考えられない。お茶でもしながらお話をして、お別れしそうな雰囲気だ。
 私は静かに頷いた。

「はい。……あ、でも、処女よりは面倒ではないと思います。自慰はするので」

 処女を面倒がる男性は多いのだと先輩たちから聞いていたので、私は自己申告しておく。
 男性客の目が細まった。

「そう。何かモノを挿れていたしているってことかい?」

 好きな食べ物は何かと尋ねているような調子で訊かれると、私は素直に頷いた。

「ええ。自分の指とか、棒状のモノとか、ですけど」
「なるほど。では、僕にふだんどうしているのか再現してもらえる?」

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