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結婚までのエトセトラ
12.ならば、俺にしておけばいい
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「……仕事場でも家でもずっと一緒になるんですけど、いいんですか? あと、この婚姻制度で支給される家で一緒に暮らすわけですけど、ベッドはひとつらしいんですよね。隣で寝られます? 私に触らずに、ですよ?」
「君が嫌なら、俺は別室で適当に転がっておくから気にするな」
念のための確認も、ルビは即答してきた。あらかじめ想像して答えを考えてきたようにも見える。
「……ってか、本気で結婚するんです?」
「書類上の、だろう? 式を挙げないといけないのであれば、そのくらいは付き合える」
任せておけとばかりに親指を立てられた。キラキラしている。
頼もしいけれど、そうじゃない。
「たぶん、そういうお披露目はなくて大丈夫です」
「そうか」
「え、本当に私と白い結婚をしていただけるんですか?」
「そう言っているはずだが……」
実感がわかない。なんでだろう。
ルビはため息をひとつついて、私を見つめた。
「俺にしておけばいいんだ。それでもう結婚にまつわる話題に振り回されることがなくなるのだろう? 仕事に専念できてなによりじゃないか」
「私にはメリットがありますけど、ルビさんにはメリットがない気がして、こわいんですが」
「ああ、そういう話か」
ルビは腕を組んで、椅子の背もたれに背中を預ける。
「この婚姻制度でクジを引かされたってことは、俺はここで君を選ばなければほかの職員にあてがわれることになる。俺の場合、前の部署にパートナーがいるから、そっちと組まされることになるだろう」
――前の部署……特殊強襲部隊だったっけ。確か応援で参加したことがあった気が……よく覚えてないけど。
異動でこの部署に来たのだから、ルビに前のパートナーがいるのは当然のことである。魔力の相性を考えて組んでいるので、この制度による結婚相手として選ばれる可能性はあるだろう。納得である。
私が頷くのを見て、ルビは続ける。
「俺としては、今の部署の仕事は好きだし、君のことも好きだ」
「ん?」
「ああ、好きっていうのは、君たちのいう恋愛感情とは違う気がするから深く考えないでもらいたいんだが、とにかく、人間として好感を持っている。これからも一緒に仕事をしていけたらいいなと考えていたところに、この結婚話がきたわけだ。だから、怖がることはない」
ルビの説明によって、彼にもここで結婚を決めておきたい消極的な理由があることがわかった。
「……約束、守れますか?」
「白い結婚、だろう? 約束する」
信用できる、と思う。
「一緒に暮らし出してから豹変したりしません?」
「俺の同位体はわからないが、俺は大丈夫だと思う」
「……そう、ですね。あなたは大丈夫な気がします」
「信頼関係が築けていたようでなによりだ」
右手を差し出された。私は頷いてその手を握る。
「よろしくお願いします?」
「ふっ、どうして疑問形なんだ。末永くよろしく頼む、だろう?」
ルビが楽しそうに笑うものだから、なんかもうそれだけでこの結婚は正解のような気がした。
「君が嫌なら、俺は別室で適当に転がっておくから気にするな」
念のための確認も、ルビは即答してきた。あらかじめ想像して答えを考えてきたようにも見える。
「……ってか、本気で結婚するんです?」
「書類上の、だろう? 式を挙げないといけないのであれば、そのくらいは付き合える」
任せておけとばかりに親指を立てられた。キラキラしている。
頼もしいけれど、そうじゃない。
「たぶん、そういうお披露目はなくて大丈夫です」
「そうか」
「え、本当に私と白い結婚をしていただけるんですか?」
「そう言っているはずだが……」
実感がわかない。なんでだろう。
ルビはため息をひとつついて、私を見つめた。
「俺にしておけばいいんだ。それでもう結婚にまつわる話題に振り回されることがなくなるのだろう? 仕事に専念できてなによりじゃないか」
「私にはメリットがありますけど、ルビさんにはメリットがない気がして、こわいんですが」
「ああ、そういう話か」
ルビは腕を組んで、椅子の背もたれに背中を預ける。
「この婚姻制度でクジを引かされたってことは、俺はここで君を選ばなければほかの職員にあてがわれることになる。俺の場合、前の部署にパートナーがいるから、そっちと組まされることになるだろう」
――前の部署……特殊強襲部隊だったっけ。確か応援で参加したことがあった気が……よく覚えてないけど。
異動でこの部署に来たのだから、ルビに前のパートナーがいるのは当然のことである。魔力の相性を考えて組んでいるので、この制度による結婚相手として選ばれる可能性はあるだろう。納得である。
私が頷くのを見て、ルビは続ける。
「俺としては、今の部署の仕事は好きだし、君のことも好きだ」
「ん?」
「ああ、好きっていうのは、君たちのいう恋愛感情とは違う気がするから深く考えないでもらいたいんだが、とにかく、人間として好感を持っている。これからも一緒に仕事をしていけたらいいなと考えていたところに、この結婚話がきたわけだ。だから、怖がることはない」
ルビの説明によって、彼にもここで結婚を決めておきたい消極的な理由があることがわかった。
「……約束、守れますか?」
「白い結婚、だろう? 約束する」
信用できる、と思う。
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「俺の同位体はわからないが、俺は大丈夫だと思う」
「……そう、ですね。あなたは大丈夫な気がします」
「信頼関係が築けていたようでなによりだ」
右手を差し出された。私は頷いてその手を握る。
「よろしくお願いします?」
「ふっ、どうして疑問形なんだ。末永くよろしく頼む、だろう?」
ルビが楽しそうに笑うものだから、なんかもうそれだけでこの結婚は正解のような気がした。
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